2018年2月25日日曜日

脱落者 12 - 3

 キャリーはセシリア・ドーマーが泣くのを見ていた。セシリアはさっきまでハイネ局長を刺したことを忘れていたのだろうか? しかしベックマン保安課長とフォーリー内務捜査官の事情聴取の時は覚えていた筈だ。彼女はドーマーは法律上存在しない人間だから殺しても罪にならないと言った。またドーマーは閉じ込められているから殺すことでハイネを解放してやったとも言った。キャリーに言わせれば、セシリア・ドーマーの主張は支離滅裂だった。

「貴女は人を殺したのね?」
「ええ・・・」
「その人はドーマーなのね?」
「・・・そうよ・・・」
「ドーマーは人よね?」
「ドーマーも人よ。」
「貴女も私もドーマーだわ。」
「ええ・・・」
「人よね?」
「・・・」
「貴女も私もドーマーで、人だわ。そうでしょ?」

 セシリアはしゃくりを上げた。キャリーはハンカチを手渡し、セシリアは鼻をかんだ。

「私達、クローンよ。」
「でもクローンは人間だわ。人間のクローンは人間よ。」
「でも私達、一生このドームの中から出られないわ。他のクローンは外の世界で家族を持って幸せに暮らしているのに。」
「全員が幸せとは限らないわ。食べ物の好みが違う様に、幸福の感じ方も違う。私は今幸せだけど、貴女はそう感じないのね。」
「リックが死んでしまったもの・・・」

 キャリーは用心深く静かな口調で尋ねた。

「リックは貴女にとってどんな存在だったの?」

 セシリア・ドーマーはもう一度鼻をかんだ。

「リックは私のオリジナルの弟なの。」
「あら・・・」

 キャリーは痛ましそうに相手を見つめた。

「お悔やみ申し上げるわ。」

 セシリアの手を軽く叩いた。

「今日はたくさん話してくれたわね、有り難う。貴女とリック・カールソンの関係を教えてくれて有り難う。疲れたでしょう、ゆっくり休んでね。」

 キャリーはハンカチをセシリアに持たせたまま立ち上がった。

「明日、また来るわ。」