2018年2月26日月曜日

脱落者 12 - 9

 ケンウッドは通信を一方的に切って、机の向こう側を見た。白い髪のドーマーが、それこそ (^^) と言う顔で彼を見返してきた。

「何の問題を話し合っていたか、わかるな、ハイネ局長?」
「何でしょう?」

すっとぼけるハイネ。宇宙連邦軍が慌てているのが面白い様だ。宇宙連邦軍も地球人類復活委員会の出資者様なのだが・・・。
 ハイネの守役ではないのに、ベックマン保安課長が言い訳した。

「局長が何をしていたのか、コンピュータの画面を見る迄気がつきませんでした。」
「私は仕事をしていただけですよ。」

 ケンウッドは己に怒るまいと言い聞かせた。ローガン・ハイネ・ドーマーには危険値が付く進化型1級遺伝子はなかった筈だ。生まれつき機械を見ただけでその使い方や構造がわかってしまう危険値S1は、逃亡中のダリル・セイヤーズ・ドーマーだけだ。ハイネは頭が良い、恐ろしく頭の回転が早いだけだ。つまり、彼は誰かが地球上から宇宙へアクセスするのを見て、学習した。してはいけないこととわかっていて、やった。遊びではない。必要だと判断してやったのだ。

「どこで覚えたんだ? その・・・ハッキングの方法を・・・」
「明かすと困る方がいらっしゃいますが・・・」
「教えてもらったのか?」
「いいえ・・・」

 ハイネは悪戯っ子の顔をして告白した。

「入院している時に、憲兵が来たでしょう? 女性の・・・ドナヒューと言いましたっけ?」
「彼女に教わったのか?」
「そんな時間はありませんでした。私の事情聴取をした彼女が、私の枕元で宇宙にデータを送信していたのです。指の動きが見えたので、それをさっき私の部屋で再現して見たら、宇宙のコンピュータに繋がったのです。」

 ベックマンが手で目を覆った。コロニー人は地球人を野蛮人だと思っている。少なくとも文明が停滞している原始人と考えている。だから「青い手」の様に地球人が絶滅しても構わないと考える輩が出てくるのだ。だが、地球人はコロニー人ほど機械に頼らない代わりに自力で物事を解決する能力に長けている。ローガン・ハイネはドームから一度も出たことがない箱入り息子だが、恐らく荒野で火を熾して狩りをして生きていけるのではないか。兎に角学習能力が半端ではない。先任者のダニエル・クーリッジが引き継ぎの時に注意してくれたではないか。

 ドーマーの中には異常に物覚えの良い連中がいる。見られて困る書類やデータは絶対に放置するな。特に頭の白い男は油断ならぬ。

 カレン・ドナヒュー軍曹は、指の動きだけでハイネが軍のデータバンクにアクセスする方法を考えたとは夢にも思わないだろう。
 ケンウッドは溜め息をついた。

「叱られるのは私だ・・・わかっててやったのか?」
「業務に必要だったからやったのです。」

 ハイネも頑固だ。謝るつもりは毛頭ない。ケンウッドはこの場は折れることにした。

「それで? 成果はあったのか?」
「ありました。長官?」
「何だね?」

 遺伝子管理局長が微笑みながら言った。

「罰として私を観察棟に入れて下さい。」