2018年2月11日日曜日

脱落者 9 - 2

「ちょっと待ってくれ・・・」

 ケンウッドは頭の中でロッシーニの報告を整理した。

 主剤はハン・ジュアンの開発時は1剤のみで使用可能とされたにも関わらず、キルシュナー製薬は触媒のレシピを添付して送って来た。
 主剤のレシピはハンが作成し、カールソンが清書して製薬会社に送った。
 主剤は空気中で開封してはならないと書かれていたので、エヴァンズが真空ボックスの中に置いて開封、中身を検査確認した。(結果は問題なし)
 触媒の調合は、セシリア・ドーマーが行った。

「ハン博士は、触媒使用の必要性を認めたのか?」
「そこなのですが・・・」

 ロッシーニが困惑した表情で言った。

「主任は薬剤管理室の外での研究者達の話は聞けません。ハン博士がどの段階で触媒使用を認めたのか、彼の記録にはないのです。ですが、ご自分の開発した薬に別の物が添えられて来たのでは、博士も疑問に感じた筈です。どこで触媒が実験に追加されることになったのか、フォーリーは調べようとしたのですが、ハン博士個人のコンピュータはドナヒュー軍曹が押収していました。」
「ドームのコンピュータを軍が勝手に押収したのか?」
「フォーリーは当然抗議しました。それでベックマン保安課長と共に3人で分析することになりました。オブザーバーとして薬剤管理室長も一緒です。」
「何時だ?」
「予定では今夜です。」

 ケンウッドは何かひっかる物を感じたが、それが何か掴めなかった。もどかしい気分でロッシーニを見た。

「その分析に主任も加えることは可能だろうか?」
「主任ですか? 不可能ではありませんが、室長がいますから・・・」

 ケンウッドは目を閉じた。もう一度、監視映像を見た時の小会議室を思い起こしてみた。

「触媒は2種類あった。それを注入する順番が逆だったので、爆発が起きたと薬剤師の1人が言った。元はなかった触媒のレシピが添付されて来たことを薬剤師達は知っていたのだな?」

 するとロッシーニも考え込んだ。1分、たっぷり考えてから、ドーマーの秘書は長官に言った。

「薬剤師達が、元は触媒など存在しなかったことを知らなかったとしたら、どうなります?」

 彼はケンウッドの返答を待たずに、端末を取り出し、誰かに電話を掛けた。

「ドブリン・ドーマー、ロッシーニだ。今、話せるか? ・・・一つだけ確認するが、ハン博士のオリジナルのレシピを見た者は、薬剤管理室では何人いる?」

 相手は、薬剤管理室主任のドーマーだ。その回答を聞いたロッシーニは、硬い表情で、「有難う」と言って、電話を切った。彼はケンウッドを振り返って言った。

「オリジナルは誰も見ていませんが、カールソンの清書を検証したのは室長だそうです。」