2018年2月25日日曜日

脱落者 12 - 6

 ベックマン保安課長とフォーリー内務捜査官はセシリア・ドーマーの処遇に関して口出しする権限を持たなかったが、それでもあれやこれやと考えざるを得なかった。彼女はアメリカ大陸の遺伝子管理局長を殺害しようとしたと言う動かせない事実がある。それが計画的なものだったのか、突発的にそうしてしまったのかで、処罰は変わる。計画的なものであれば、誰かにそそのかされたのか、彼女自身の考えだったのかと調べなければならない。
 秘書2人は、そろそろお昼だな、と考えていた。毎日昼前に局長は長官執務室に出向いて、次の1日の計画・予定を打ち合わせするのが日課だった。それが入院で中断している。この日は長官が夕方出張するので準備に忙しいのか、長官執務室からお呼びがまだかからない。ジェレミー・セルシウスは変化があっても動じないが、ネピアは規則正しく仕事をするのが好きな人間だ。時計を気にしていたら、フォーリーに誤解された。

「もう昼食時間ですか、ネピア・ドーマー?」

 ネピアとフォーリーはあまり年齢差がない。ネピアは局員経験者だが、フォーリーは入局以来ずっと内務捜査班にいる。ネピアは外勤務経験者の方が立場が強いと思っていたが、局長は外に出たことがない人だ。そして内務捜査班は秘密主義で局員経験者達も苦手に感じている。局員経験者は引退すると内勤業務に移るのだが、内務捜査班は引退がない。彼等の報告書を清書する内勤の仕事をしているうちに、ネピアは彼等がかなり専門的な分野を極めていることに気が付いた。殆ど科学者だ。コロニー人科学者達の違反を捜査しているのだから当然だが、内勤の元局員には太刀打ちできない相手に思えた。
 ネピアはフォーリーに指摘されてちょっと慌てた。

「いや、長官執務室での打ち合わせの時間の筈が、連絡がないな、と思ったので・・・」
「長官はお忙しいのでしょう。夕刻には月へ出張されるし。」
「しかし打ち合わせも重要だろう・・・」

 局長崇拝者のネピアには、局長を無視することは許されない暴挙と採られた。
 セルシウス・ドーマーはお茶を淹れた。ベックマンと局長とフォーリーに出すと、ネピアに目を向けた。ネピアは首を振って断った。
 局長がお茶に気がつくと秘書達に声をかけた。

「昼休みにしなさい。私はもう少し時間がかかる。」

 ベックマンは彼が何をしているのか気になった。しかし無断で地球人のコンピュータを見ても良いものだろうか? するとハイネが彼を呼んだ。

「保安課長、亡くなった3人の研究者の身元調査の結果が出ています。」
「何?」

 ベックマンはハイネの横に移動してコンピュータの画面を覗き、心の中で「ゲッ!」と叫んだ。