2018年2月25日日曜日

脱落者 12 - 8

「まさか・・・」

 ケンウッドは思わずそう言っていた。宇宙連邦軍のセキュリティは宇宙一厳重だ。地球上から簡単にアクセス出来る筈がない。そんな技能を持っているとしたら、進化型1級遺伝子危険値S1に認定される。勿論、それはドーマーがハッカーだと想定した場合で、コロニー人の仕業だとすれば、テロリストの仲間がまだ残っている可能性があると危惧しなければならない。

「ご存知のように、ドームから外へアクセスする時は保安課のサーバーを必ず通します。執政官が割り当てられているパスコードを入れなければ、宇宙への通信は出来ません。
執政官が宇宙軍のコンピュータにハッキングするとは思えない・・・」
「それが・・・」

 ハナオカ委員長が躊躇った時、画面に彼を押しのけるかの様に1人の年配の男性が現れた。宇宙連邦軍憲兵隊の制服を着ている将校だ。

「貴方がアメリカ・ドームのケンウッド長官ですか?」
「そうですが?」
「宇宙連邦軍憲兵隊本部のジョン・ビーチャー大尉です。」
「こんにちは、ビーチャー大尉・・・」
「お聞きの通り、貴方のドームから我が隊のコンピュータに侵入した者がいます。」
「まさか・・・」
「事実です。複数の地球上、月、衛星のサーバーを経由して巧妙に足跡を消していましたが、何とか当方の技術者が追跡に成功しました。貴方のドームからのハッキングに間違いありません。」
「しかし、軍のコンピュータにアクセスする必要がある人間などいませんよ。」

 と言ってから、ケンウッドはふと嫌ぁな予感がして、執務机の向こうに座っている白い髪の男を見た。

「ちなみに、何のデータをハッキングされたのです?」
「貴方のドームで先日テロの犠牲になった3人の研究者の身元調査データです。」

 ケンウッドはもう一度机の向こうを見た。ベックマンは小さくなっていた。ハッカーの正体を知っているのだ。さっきから彼が何か言いたそうだったのは、このことか?
 もう1人、ハイネはポーカーフェイスだ。コロニー人達が何を問題にして話し合っているのか理解しているくせに知らん顔している。
 ケンウッドはビーチャー大尉に尋ねた。

「そのデータを外部に持ち出されると都合が悪いのですか?」
「データの重要性は問題ではありません。」

 大尉が顔を赤くして言った。

「無断で軍のデータにアクセスした事実が問題なのです!」
「わかりました。」

 ケンウッドは腹を括って言った。

「重々叱っておきます。」

 大尉が目を丸くした。

「犯人をご存知なのか?」

 ケンウッドは時計見るふりをして言った。

「数時間後に月に居ますから、その時にお話します。」