「君の御株を奪うことになるが・・・」
ケンウッドは硬い表情でロッシーニに命じた。
「カールソンと室長のコンピュータも押収させろ。保安課に連絡する暇はあるかな? なければ内務捜査班単独で決行しても構わない。」
「軍曹にも連絡しますか?」
「どおでも良い。」
言ってしまってから、思い直して、
「後でギャーギャー騒がれても面倒だから、一応伝えておけ。但し、室長には不意打ちで行け。事前連絡はするな。」
「承知しました。」
ロッシーニはフォーリーに電話を掛けた。ケンウッドの命令を伝えて通話を終えてから、長官を再び見た。
「ところで、これは医療区長に内緒にして戴きたいのですが・・・」
「何だね?」
「フォーリーは既にハイネ局長から事情聴取を終えています。」
ケンウッドは、集中治療室でハイネが無断でタブレットを弄っていた光景を思い出した。
「メールでやりとりしたのか・・・フォーリーの指示で看護師がタブレットを局長に手渡したのだな?」
「申し訳ありません。フォーリーは待てなかったのです。局長暗殺計画があったのかも知れないと恐れていました。」
「それは私も心配で堪らない。」
「局長が実験に立ち会うことになったのは、事件の前日の夜でした。副長官からお誘いがあったそうです。薬剤に詳しい局長にサポートを頼みたいとのことでした。」
「うん・・・ブラコフはハイネと一緒に仕事が出来る機会を狙っていた。それだけだ。」
「副長官に非はありませんでした。局長は時間に余裕があると思って、承諾されたのです。忙しければお断りした筈です。」
「うん。」
「局長は、実験に立ち会うことを薬剤管理室にご自分で連絡を入れられました。連絡を受けたのは、エヴァンズでした。」
「エヴァンズが?」
「はい。彼女は局長の立会いを室長に伝えると告げた後で、彼女も立会いたいと局長に申し出たそうです。」
「彼女は触媒のレシピの存在に疑問を抱いた。だから、何が起きるのか知りたかったのだな?」
監視映像の中のエヴァンズは真剣な目付きでハン博士の手元を見つめていた。
「局長は女性達を誘ったのではなく、彼女達が局長の立会いを利用して実験室に入ったのだ。セシリア・ドーマーも誘ったのではなかったのだな?」
「局長は実験室には既にセシリアが居たので、驚いたと仰っていました。」
ケンウッドはまた考えた。
「室長は、触媒もキルシュナー製薬から送られて来て、未開封のまま実験室に運ばれたと小会議室で証言した。しかし、実際はセシリア・ドーマーが2剤をここの調剤室で調合した。何故室長は嘘を並べ立てるのだ?」
ロッシーニが困った様な表情を見せた。
「長官、我々内務捜査班はコロニー人の経歴を調査する権限を与えられておりません。あの室長はどんな経歴の方なのです? アメリカ・ドームに勤務して既に6年になりますが・・・」
ケンウッドは彼の顔を見た。そして自身のコンピュータに視線を移した。キーを叩いて、ドナルド・アンガス・フェリートと入力して経歴を開示させた。ロッシーニの為に読み上げた。
「ドナルド・アンガス・フェリート、今年で63歳、出生地、火星第6コロニー・・・学歴は必要かな? 最終学歴は火星第3大学、薬学部大学院卒、薬学博士、卒業と同時に就職・・・」
恐らく室長が若い頃に転々とした職場はロッシーニには無意味な名前だったろう。最後の職場、つまりドームに来る前の職場は、アボンリー薬品製造・・・。
ケンウッドはどこかで聞いた名前だと思った。アボンリー薬品、と彼が繰り返し呟くと、ロッシーニもそれに反応した。
「長官、私の記憶違いでなければ、それはサンテシマ・ルイス・リン元長官が興した会社ではありませんか?」
ケンウッドは雷に打たれた様な衝撃を受けた。心臓が止まりそうなショックだ。
「サンテシマの会社に、室長は居たのか!」
ケンウッドは硬い表情でロッシーニに命じた。
「カールソンと室長のコンピュータも押収させろ。保安課に連絡する暇はあるかな? なければ内務捜査班単独で決行しても構わない。」
「軍曹にも連絡しますか?」
「どおでも良い。」
言ってしまってから、思い直して、
「後でギャーギャー騒がれても面倒だから、一応伝えておけ。但し、室長には不意打ちで行け。事前連絡はするな。」
「承知しました。」
ロッシーニはフォーリーに電話を掛けた。ケンウッドの命令を伝えて通話を終えてから、長官を再び見た。
「ところで、これは医療区長に内緒にして戴きたいのですが・・・」
「何だね?」
「フォーリーは既にハイネ局長から事情聴取を終えています。」
ケンウッドは、集中治療室でハイネが無断でタブレットを弄っていた光景を思い出した。
「メールでやりとりしたのか・・・フォーリーの指示で看護師がタブレットを局長に手渡したのだな?」
「申し訳ありません。フォーリーは待てなかったのです。局長暗殺計画があったのかも知れないと恐れていました。」
「それは私も心配で堪らない。」
「局長が実験に立ち会うことになったのは、事件の前日の夜でした。副長官からお誘いがあったそうです。薬剤に詳しい局長にサポートを頼みたいとのことでした。」
「うん・・・ブラコフはハイネと一緒に仕事が出来る機会を狙っていた。それだけだ。」
「副長官に非はありませんでした。局長は時間に余裕があると思って、承諾されたのです。忙しければお断りした筈です。」
「うん。」
「局長は、実験に立ち会うことを薬剤管理室にご自分で連絡を入れられました。連絡を受けたのは、エヴァンズでした。」
「エヴァンズが?」
「はい。彼女は局長の立会いを室長に伝えると告げた後で、彼女も立会いたいと局長に申し出たそうです。」
「彼女は触媒のレシピの存在に疑問を抱いた。だから、何が起きるのか知りたかったのだな?」
監視映像の中のエヴァンズは真剣な目付きでハン博士の手元を見つめていた。
「局長は女性達を誘ったのではなく、彼女達が局長の立会いを利用して実験室に入ったのだ。セシリア・ドーマーも誘ったのではなかったのだな?」
「局長は実験室には既にセシリアが居たので、驚いたと仰っていました。」
ケンウッドはまた考えた。
「室長は、触媒もキルシュナー製薬から送られて来て、未開封のまま実験室に運ばれたと小会議室で証言した。しかし、実際はセシリア・ドーマーが2剤をここの調剤室で調合した。何故室長は嘘を並べ立てるのだ?」
ロッシーニが困った様な表情を見せた。
「長官、我々内務捜査班はコロニー人の経歴を調査する権限を与えられておりません。あの室長はどんな経歴の方なのです? アメリカ・ドームに勤務して既に6年になりますが・・・」
ケンウッドは彼の顔を見た。そして自身のコンピュータに視線を移した。キーを叩いて、ドナルド・アンガス・フェリートと入力して経歴を開示させた。ロッシーニの為に読み上げた。
「ドナルド・アンガス・フェリート、今年で63歳、出生地、火星第6コロニー・・・学歴は必要かな? 最終学歴は火星第3大学、薬学部大学院卒、薬学博士、卒業と同時に就職・・・」
恐らく室長が若い頃に転々とした職場はロッシーニには無意味な名前だったろう。最後の職場、つまりドームに来る前の職場は、アボンリー薬品製造・・・。
ケンウッドはどこかで聞いた名前だと思った。アボンリー薬品、と彼が繰り返し呟くと、ロッシーニもそれに反応した。
「長官、私の記憶違いでなければ、それはサンテシマ・ルイス・リン元長官が興した会社ではありませんか?」
ケンウッドは雷に打たれた様な衝撃を受けた。心臓が止まりそうなショックだ。
「サンテシマの会社に、室長は居たのか!」