2018年2月4日日曜日

脱落者 7 - 2

 ベックマン保安課長はカレン・ドナヒュー軍曹とビル・フォーリー・ドーマーと共に観察棟の通路に居た。1時間前に出産管理区からセシリア・ドーマーが移されたところだ。彼女は意識を取り戻してからも薬を注射されて朦朧とした状態だった。折れた鼻と喉の火傷以外に大きな傷はない。あとはかすり傷程度だ。爆発の瞬間にローガン・ハイネに庇ってもらったお陰なのに、その恩人をガラスの破片で刺した。
 3人の捜査官は何も監視映像で見た彼女の行動に疑問を抱いていた。錯乱したとしても不自然だ。彼女にブラコフを襲う理由もハイネを刺す理由もない・・・筈だ。

「女性ドーマーは生まれてから死ぬ迄ドームから出ない。唯一の例外は、男性ドーマーと結婚して彼と共に子供を自力で育てると決意した場合のみだ。ドーマーがドーム内で子育てする権利は認められていない。子育てしたければ、ドーマーであることを辞めて外で暮らさなければならない。」

 ベックマンが執政官の1人としてドナヒュー軍曹に説明した。横でドーマーのフォーリーが黙って聞いているので、緊張する。間違ったことを言いはしないかと、内心冷や汗ものだった。

「だから、セシリア・ドーマーが外の人間と接触したとは考えられない。彼女が接触する外の人間は皆無だ。彼女が接するコロニー人は全員地球人類復活委員会に属し、雇用されている執政官と研究員、それに設備維持の技術者だけだ。技術者は薬剤管理室に出入りしないし、地球上を巡回しているので運動施設を利用することもないから、食堂で出会わない限り彼女と言葉を交わすことはない。」
「すると、仮に彼女が『青い手』と関係を持ったすると、考えられるのは、執政官、研究員、それに男性ドーマーの誰かがテロリストと繋がりがあると言うことですね?」

と軍曹。3人共にリック・カールソン研究員が気になっていた。爆発で死亡してしまっているが、その背後を調査せねばならないと思った。
 ドナヒューが「男性ドーマー」と言っても、フォーリーは口出ししなかった。内務捜査班の副官は無口だが、目付きは鋭く、思慮深そうだ。ドナヒューはドームの規則で武器携行を許可されていないが、フォーリーも丸腰だ。しかし体格を見ると、素手でも十分強そうだった。ただ1人麻痺光線銃を携行しているベックマンは、上着を脱いでいた。セシリア・ドーマーに対して抑止力になるかどうか心もとなかったが。
  ベックマンが仲間を見た。

「では、入ろうか。」