ケンウッドの部屋は狭くて長老達を泊めるスペースがなかったので、ペルラ・ドーマーとワッツ・ドーマーは深夜に「黄昏の家」に帰って行った。
ケンウッドはベッドに入り、3時間ばかり眠って、目が覚めると小さな書斎に入ってガブリエル・ブラコフの傷ついた顔の画像を呼び出した。医師でなくても執政官は全員医療免許を持っている。医療区が非公開にしなければカルテを読むことが出来た。
ケンウッドはブラコフの顔に新たに付ける筋肉の構想を練った。頰、鼻、唇、額、耳 ・・・筋肉を再生させてから眼球と唇に取り掛かる。耳は耳殻だけだが、ただくっつけるだけではない。どれにも神経を通さなければならない。神経細胞の専門家はヘンリー・パーシバルだが、彼は現在火星のコロニーに住んでいる。地球に呼び出すことは出来ない。
そこまで考えて、ケンウッドはブラコフの治療に最短でも半年かかることを思い出した。執政官が病気療養で休めるのは半年だけだ。それ以上は退官しなければならない。だから重力障害に罹ったパーシバルは退官したのだ。ブラコフは順調に行ってギリギリだ。
ケンウッドは溜息をついた。ブラコフが退官しても治療を続けてやることは可能だ。問題はブラコフ自身が将来をどうするか決めなければならない。ギリギリまで治療を受けてドームに復帰出来るように頑張るか、それとも念願だったドーム執政官の職を諦めて治療に専念するか。
どうする、ガブリエル、君はどうしたい?
書斎でうたた寝をしてしまった。次に眼が覚めると早朝の運動時間を過ぎようとしていた。慌ててシャワーを使い、着替えてアパートを出た。食堂で熱いコーヒーとクロワッサンで簡単に朝食を取っていると、入り口で賑やかな声が聞こえた。
「ジャジャーン、僕ちゃんが朝ご飯に来ましたよ〜! ドームの皆さん、おっはっよーございます!!」
いつも陽気な遺伝子管理局員、クロエル・ドーマーだった。昨晩外勤務から帰って来た。同僚は抗原注射の効力切れでまだ休んでいるのだが、彼は不要なので、朝っぱらから元気いっぱいだ。コロニー人のファンが数名後ろにいるが、彼は無視する。ファンクラブなど面倒臭くて持たない主義だ。だから、後ろのファン達は非公認のクラブなのだろう。
クロエル自身はハイネ局長の大ファンだ。だから食堂内をぐるりと見回したが、局長の姿はなかった。
あれ? と言う顔をしたクロエル・ドーマーはケンウッド長官が1人で食事しているのを見つけた。彼は素早く自分の朝食をトレイに取ると、長官が食べ終わる前にテーブルに押しかけた。
「おはようございます、長官。お一人ですかぁ?」
長官が相手なのでファン達は遠慮してやって来ない。どんな相手にも物怖じしないクロエルは断りもなくケンウッドの正面に座った。ケンウッドも苦笑するしかない。
「おはよう、クロエル・ドーマー。君はいつも元気だね。」
「このところ合気道もムエタイも柔術もサボってますからぁ・・・」
クロエルは入り口に視線を向けた。
「局長はまだですかね?」
ケンウッドは静かに囁いた。
「ハイネは来ない。」
え? とクロエルが向き直った。驚いた様に大きな眼をさらに大きく見開いて、長官を見た。ケンウッドは低い声で、この可愛らしい大きな若者に教えてやった。
「君が外に出ている間にちょっとした事件があって、局長は怪我をした。医療区で寝ているんだ。数日経てば退院出来る筈だから、大人しく待っていなさい。」
あまり口外するなと言う意味で最後の言葉を言った。クロエルは利口だ。平素はおちゃらけて騒がしいが、ちゃんと締める時は締める。素直に「わかりました」と言った。
「お命に別状はないんすね?」
「医者の言うことを聞いていれば、大丈夫だ。チーズを食えるようになる迄大人しく寝ているよ。」
ケンウッドはベッドに入り、3時間ばかり眠って、目が覚めると小さな書斎に入ってガブリエル・ブラコフの傷ついた顔の画像を呼び出した。医師でなくても執政官は全員医療免許を持っている。医療区が非公開にしなければカルテを読むことが出来た。
ケンウッドはブラコフの顔に新たに付ける筋肉の構想を練った。頰、鼻、唇、額、耳 ・・・筋肉を再生させてから眼球と唇に取り掛かる。耳は耳殻だけだが、ただくっつけるだけではない。どれにも神経を通さなければならない。神経細胞の専門家はヘンリー・パーシバルだが、彼は現在火星のコロニーに住んでいる。地球に呼び出すことは出来ない。
そこまで考えて、ケンウッドはブラコフの治療に最短でも半年かかることを思い出した。執政官が病気療養で休めるのは半年だけだ。それ以上は退官しなければならない。だから重力障害に罹ったパーシバルは退官したのだ。ブラコフは順調に行ってギリギリだ。
ケンウッドは溜息をついた。ブラコフが退官しても治療を続けてやることは可能だ。問題はブラコフ自身が将来をどうするか決めなければならない。ギリギリまで治療を受けてドームに復帰出来るように頑張るか、それとも念願だったドーム執政官の職を諦めて治療に専念するか。
どうする、ガブリエル、君はどうしたい?
書斎でうたた寝をしてしまった。次に眼が覚めると早朝の運動時間を過ぎようとしていた。慌ててシャワーを使い、着替えてアパートを出た。食堂で熱いコーヒーとクロワッサンで簡単に朝食を取っていると、入り口で賑やかな声が聞こえた。
「ジャジャーン、僕ちゃんが朝ご飯に来ましたよ〜! ドームの皆さん、おっはっよーございます!!」
いつも陽気な遺伝子管理局員、クロエル・ドーマーだった。昨晩外勤務から帰って来た。同僚は抗原注射の効力切れでまだ休んでいるのだが、彼は不要なので、朝っぱらから元気いっぱいだ。コロニー人のファンが数名後ろにいるが、彼は無視する。ファンクラブなど面倒臭くて持たない主義だ。だから、後ろのファン達は非公認のクラブなのだろう。
クロエル自身はハイネ局長の大ファンだ。だから食堂内をぐるりと見回したが、局長の姿はなかった。
あれ? と言う顔をしたクロエル・ドーマーはケンウッド長官が1人で食事しているのを見つけた。彼は素早く自分の朝食をトレイに取ると、長官が食べ終わる前にテーブルに押しかけた。
「おはようございます、長官。お一人ですかぁ?」
長官が相手なのでファン達は遠慮してやって来ない。どんな相手にも物怖じしないクロエルは断りもなくケンウッドの正面に座った。ケンウッドも苦笑するしかない。
「おはよう、クロエル・ドーマー。君はいつも元気だね。」
「このところ合気道もムエタイも柔術もサボってますからぁ・・・」
クロエルは入り口に視線を向けた。
「局長はまだですかね?」
ケンウッドは静かに囁いた。
「ハイネは来ない。」
え? とクロエルが向き直った。驚いた様に大きな眼をさらに大きく見開いて、長官を見た。ケンウッドは低い声で、この可愛らしい大きな若者に教えてやった。
「君が外に出ている間にちょっとした事件があって、局長は怪我をした。医療区で寝ているんだ。数日経てば退院出来る筈だから、大人しく待っていなさい。」
あまり口外するなと言う意味で最後の言葉を言った。クロエルは利口だ。平素はおちゃらけて騒がしいが、ちゃんと締める時は締める。素直に「わかりました」と言った。
「お命に別状はないんすね?」
「医者の言うことを聞いていれば、大丈夫だ。チーズを食えるようになる迄大人しく寝ているよ。」