2018年2月25日日曜日

脱落者 12 - 5

 アーノルド・ベックマンはケンウッド長官との通話を終えて、周囲の人々を見た。彼は遺伝子管理局本部局長執務室に居た。滅多に入ることがない本部だ。最後に入ったのは就任の挨拶の時じゃないか、と彼はふと思った。それだけドーム内は平和で、地球人の役所は彼にとって用がない場所だった。だが、観察棟のモニター室でセシリア・ドーマーとキャリー・ジンバリスト・ドーマーの会話を聞いていると、セシリアが「オリジナルはリック・カールソンの姉」と言う意味の言葉を語った。それが真実なのか、調査するには、長官と遺伝子管理局長の協力が必要だった。
 コロニー人の身元調査はコロニー人にしか出来ない。だからケンウッド長官に尋ねたが、長官の手持ちのカードは少なかった。
 ベックマンが遺伝子管理局に来ているのは、一緒にセシリア・ドーマーの話を聞いていたビル・フォーリー・ドーマーに連れて来られたからだ。フォーリーはセシリアとキャリーの会話の録画を局長に見せた。保安課の資料になるので、ベックマンの立会いがあった方が後で面倒にならないだろうと思ったのだ。
 前日に業務に戻ったばかりのハイネ局長は、その朝は1人で日課を片付けてしまい、念のために手伝いに来ていたグレゴリー・ペルラ・ドーマーは、安心した声で「もうお役御免ですな」と言って、「黄昏の家」に帰って行った。局長はスーツの上着の代わりに前日医療区でもらったカーディガンを羽織っていた。お堅い第2秘書のネピア・ドーマーが、局長はこのままカーディガンを制服にしてしまうのではないかと心配した。
 ベックマンが電話を終えたので、ハイネ局長は少し考え込んだ。

「セシリアとカールソンが遺伝子的姉弟ではないと言う証明が出来れば良いのですね?」
「カールソンの遺伝子サンプルとセシリアの遺伝子を比較したいのだが、生憎カールソンの遺体と遺品は全て軍が月へ送ってしまったんだ。」

 ベックマンは、カールソンがセシリアと恋愛関係にあったと思い込んでいたので、セシリアの言葉にショックを受けていた。

「騙されていたとセシリア・ドーマーが悟って、何が彼女にあんな行動を起こさせたのか、告白してくれれば良いのだが・・・」
「軍はもう調べているのでしょうね?」
「亡くなった3名の背後関係も調べている筈だ。テロリストは味方も平気で犠牲にする可能性があるからな。だが軍が調べるのは、爆発の仕組みだけで、ドーマーが貴方を刺した理由ではない。私と長官は、貴方が何故刺されたのか、その理由を知りたい。彼女が錯乱したと言うだけでは、納得出来ないのだ。」

 フォーリーも言った。

「セシリア・ドーマーの処罰に関しても、真相解明は必要でしょう。」

 ハイネはまた少し考えてから、おもむろにコンピュータのキーを叩き始めた。