2018年2月17日土曜日

脱落者 11 - 2

 薬剤管理室主任のショーン・ドブリン・ドーマーが、夕食を摂っているケンウッド長官と秘書のロッシーニ・ドーマーのテーブルにやってきた。

「こんばんは、長官、ロッシーニ・ドーマー。同席させて頂いてよろしいでしょうか?」

 ケンウッドが頷くと、彼はロッシーニの隣に座った。内務捜査班の潜入捜査官、ロッシーニの部下だ。ケンウッドが薬剤管理室の様子を尋ねると、彼は肩を竦めて言った。

「憲兵のお姉さんから業務停止を食らっていますから、薬剤師達はロボットの点検や薬剤の在庫調べをしています。コンピュータを押収されているし、仕事は停滞するしで、みんなストレスを溜めていますね。」
「申し訳ない、フェリート室長に嫌疑がかかっているので、もう暫く我慢してくれ。」
「我々は我慢出来ますが、執政官のみなさんはどうなのです? 研究に支障が出るでしょう?」
「維持班の漢方薬でなんとかやっているらしい。」

とロッシーニが会話に加わった。彼は周囲をさっと見回してから、部下を促した。

「ハン博士のレシピの報告を頼む。」
「ハン博士が開発した薬剤は主剤1種のみ。私と室内に残った薬剤師6名全員で保安課が手に入れた博士のレシピを検証してみましたが、爆発する様な成分は使われていません。
また触媒使用の必要もない完成された羊水分析剤でした。」
「カールソンが清書したレシピは手に入ったか?」
「それも保安課がコピーをくれました。ハン博士のレシピを少し変えていました。オリジナルのレシピで製造すると薬が空気で変異し易くなる欠点を補う為に、製造の最終過程で一旦完成を止め、使用直前に最後の1剤を加える、となっていました。このレシピにも爆発する成分は入っていませんでした。」

 ケンウッドが確認した。

「追加する薬剤は、カールソンの清書では、1剤だけなのだね?」
「そうです。」
「室長の監修結果は手に入ったか?」
「フェリートはそれを削除していましたが・・・」

 ドブリン・ドーマーがニヤリと笑った。

「あのドナヒュー軍曹はコンピュータエンジニアとしての腕もなかなかのものです。削除されたデータを復活させました。彼女はデータを軍の基地に送信しましたが、我々は保安課がコピーしたものを手に入れました。」

 ケンウッドは聞いていて可笑しくなってきた。ドナヒューもベックマンもコロニー人だ。2人共、地球人にテロリストの情報を与えてはならないと言う防衛軍や委員会の会則に従って、押収したレシピを1枚も薬剤師達に見せていない筈だ。捜査の途中なのだから、尚更当たり前だ。しかし、ドブリン主任は、薬剤師達、コロニー人3名と彼を含めたドーマー4名でどのレシピも検証したと言っている。ドナヒューが軍の基地と交信する時、必ずドームのサーバーを使用する。サーバーは保安課が管理している。傍受するのはお手の物だ。しかも、保安課員は、ベックマン課長以外は全員ドーマーなのだ。内務捜査班の要求に応じて当たり前と言う人々ばかりだった。
 ドブリン・ドーマーは言った。

「フェリート室長はカールソンのレシピをキルシュナー製薬に送っていました。ただし、いくつかの成分の名前が赤文字で記されていました。赤文字の成分を別物に置き換えると、爆発物が製造出来ます。そして、成分を置き換えられたレシピと薬剤がキルシュナー製薬から送り返されて来ました。追加の薬も2剤に増えており、その理由がキルシュナーのレシピに『反応促進剤』と記されていました。確かに最初のハン博士のレシピで製造すると、成分同士の結合反応が遅くて時間がかかったのです。キルシュナーの研究者達の検証結果で2剤の触媒が必要となった、と我々は室長から説明を受けました。
 しかし、エヴァンズは納得しなかったのです。彼女は開発者のレシピが間違っている筈がないと言い、送られて来た薬剤の検査を主張しました。それで室長は許可しました。
 レシピ通りの製品ですから、エヴァンズが検査した時、間違っていないかの様に思われたのです。」
「それでも彼女は、薬剤に納得が行かなかったのだね?」
「そうです。ですから、局長に頼み込んで実験室に入れてもらったのです。」