2018年2月5日月曜日

脱落者 7 - 4

 セシリア・ドーマーが咳き込んでいる間、ベックマンはドナヒュー軍曹とフォーリー・ドーマーを通路へ誘い出した。ドアを閉じると、彼は2人に尋ねた。

「私には彼女が殺意を持ってハイネを刺したように聞こえたが、どう思う?」
「『解放』とか『閉じ込められて』とか『飼われている』とか、そんな言葉を使っていましたね。」

 ドナヒューがフォーリーを見た。ドーマー達は皆そんなことを感じているのだろうか?
しかしフォーリーは言った。

「感じ方は人それぞれです。しかし他人を殺して『解放してやる』と言う考え方は私には理解出来ません。」
「それはコロニー人もドーマーも外の地球人も同じだ。まともな人間の考えじゃない。」

 ベックマンは手で顔をこすった。ドームに職を得てから二日前まで平和で穏やかな日々を送って来た。彼は宇宙軍の傭兵として辺境の開拓惑星で働いて来た。宇宙軍と言っても、異形のエイリアンと戦う訳ではない。開拓を妨害する同じ人類から開拓団を護衛していたのだ。宇宙の盗賊は地球人の末裔だ。開拓地を平気で荒らしたし、殺人も犯した。傭兵は標的にされた。ベックマンはそれなりに危険な職場を渡り歩いて来たのだ。だからドームの小さくても平和な世界が好きだった。ささくれだっていた彼の心に人間らしさを取り戻してくれたのは、コロニー人を親と思えと躾けられたドーマー達の純真さだった。
 それなのに・・・ドームで生まれ育った女が同じドーマー仲間を殺害しようとした。しかも自分たちのリーダーである長老を・・・。

「ローガン・ハイネは立派な人だ。若いドーマー達を我が子の様に愛しているし、年長者には敬意を払って接している。常に仲間のことが一番で自身は最後だ。セシリアの様な若い薬剤師達は訓練所でハイネの講義を受けた筈だ。彼は彼女の恩師でもある。そんな人を身勝手な解釈で哀れんで死を以って『解放』してやろうと?」
「誰かが彼女に邪な考えを吹き込んだのでしょう。」