2018年2月25日日曜日

脱落者 12 - 7

 業務打ち合わせは昼食後に行われた。ケンウッド長官はハイネ局長に留守番を頼むのだから、いつもより内容が濃くなる。もう1人の幹部であるベックマン課長も同席した。ケンウッドはベックマンが何か言いたそうにソワソワしているのが気になったが、ハイネに普段局長が関知しない必要業務を説明することに忙しかった。それらの業務は、ドームに問題が発生しなければしなくても良い仕事だ。長官の日常業務は秘書のロッシーニと副長官秘書に委任する。

「ブラコフが入院しているのに、ヴェルティエンを連れて来いとは、本部も何を考えているのか・・・」

 ケンウッドは心底困惑していた。正常に動いている時でもドームの仕事はいっぱいあるのだ。ヴェルティエンは遺伝子学者ではないが、優秀な秘書だ。彼を留守番に置いておけば、ハイネもベックマンも気が楽だろうに。
 ハイネは大人しく説明を聞き、わからなければ質問する良い生徒だ。翌日の朝普段通りに遺伝子管理の日課をこなし、手があけば中央研究所に来て長官執務室で非常事態に備えて待機しておく、それだけだ。ケンウッドは月で問題が発生しなければ明日の夜には帰って来られる筈だ。

「体調がまだ万全でない君に仕事を増やすのは酷だが、マザーの管理者は君とベックマンだけだからね。」
「私が長官業務出来れば良いのですが・・・」

 ベックマンが残念そうに呟いた。彼はテロ事件の後なので警備強化で忙しい。それに事務仕事は苦手だった。ハイネが微笑した。

「保安課長がしっかり働いて下さっているので、私の出番はないと思いますけどね。」
「局長・・・」

 ベックマンが困った顔をした。さっきから何か言いたいのだが、どう切り出して良いのかわからない。だが今長官に言わなければ・・・と彼が決心した時、長官のコンピュータが緊急通信の音を発した。ケンウッドは彼等に断って画面を出した。
 地球人類復活委員会のハナオカ委員長が画面に現れた。

「ケンウッド長官、問題が発生した・・・」

 委員長は困った顔をしている。どうして今日は誰も彼もが困っているのだ?
 ケンウッドは尋ねた。

「どうしました?」

 委員長が答えた。

「君のドームから宇宙連邦軍憲兵隊本部のコンピュータにアクセスした者がいる。」