2018年2月4日日曜日

脱落者 6 - 6

 中央研究所の食堂の入り口で、ケンウッドはヤマザキと出会った。2人は同時に声を掛け合った。

「良い報せがある。」
「悪い報せがある。」

 互いに数秒間見つめ合った。そしてケンウッドが先に尋ねた。

「良い報せとは?」
「先に悪い報せを聞きたい。」

 ヤマザキは落ち込ませてから希望を与える主義だ。ケンウッドは、彼がセシリア・ドーマーに疑いを抱いたことを思い出したので、素直に先に言った。

「彼女は故意に局長を刺した恐れがある。捜査陣の意見だ。」

 周囲に誰もいない。厨房班にも聞こえていない筈だ。配膳コーナーの奥から賑やかな声が聞こえてくる。厨房班は明日からチーズを使用できると張り切っているのだ。
 ヤマザキはケンウッドの言葉に頷いた。そして次は彼の番だ。

「局長の回復状態は良好。そして、ガブリエルが目覚めた。」
「えっ?」
「現状を説明したら、彼は理解してくれた。治療に専念してくれるそうだ。前向きな良い男だ。」
「コミュニケーションを取れるのか?」
「聴力に問題はない。脳も正常だ。こちらからの言葉はちゃんと通じる。彼からこちらへ考えを伝える方法を考える。まだ脳波翻訳機を装着できる箇所がないからね。」

 するとケンウッドはあっさりと案を出した。

「残った頭髪を剃り落として、頭皮に付けてやってくれ。誰も笑う者などいない。」

 ヤマザキが笑った。

「そう言う手があったか・・・うん、名案だ。髪の毛が伸びる頃には、コメカミの皮膚が再生されてるよう、優先してみる。」

 そして厨房の中を背伸びして覗いた。

「チーズを使えると聞いて馬鹿に喜んでいるな・・・」
「チーズ使用と言うことは、ハイネが元気になったと言う意味だからだろう。」

 ケンウッドは小さな溜息をついた。

「私は地球が宇宙の争いから隔離された聖地だと言う幻想を打ち破られて、ちょっと滅入っているんだ。」
「聖地なんて、元々幻想だよ、ケンさん。医者は毎日現実と向き合っているからね。ハイネやレイン達ドーマーの美しさは夢なんかじゃない、彼等は現実に生きているから美しいんだ。」