2018年2月25日日曜日

脱落者 12 - 4

 ケンウッドは出張の準備の途中だったが、ベックマンの要請により、セシリア・ドーマーのオリジナル卵子提供者の検索をした。

「オリジナルの母親は、セシリア・テイラーだ。」
「カールソンではない?」
「カールソンではない。」
「離婚したとか、再婚したとか・・・」
「そんな情報はマザーには入っていない。しかし、リック・カールソンの両親の情報はある。」

 ケンウッドはキーを叩いて、亡くなった研究者の履歴を出した。

「スタン・カールソンとエリザベート・ウェストだ。」
「姉とか妹はいませんか? 養子に出されたとか、あるいはリックが養子だったとか?」
「リックはスタンとエリザベートの息子だ。ああ・・・待て待て・・・スタンとエリザベートに他の子供がいるかどうか、これは月に問い合わせてみないといけない。」
「お願いします、お忙しいでしょうが・・・」
「なに、事務局に問い合わせのメールを入れておく。返事が何時になるかわからないが、今日中には何か言ってくるだろう。」

 ベックマンとの通話を終えて、秘書達を見た。ヴァンサン・ヴェルティエンは執行部からの呼び出しの理由が判然としないので不安がっていた。

「僕は何か疑われる様な行動を取ったんだろうか?」
「貴方がテロリストなんて誰も思わないでしょう。」

とロッシーニが慰めた。ロッシーニの方がずっと年長だが、ヴェルティエンは執政官に準じる地位にいるので、慇懃な態度を取っている。ヴェルティエンはそれでも不安を拭いきれなかった。

「僕はバックパッカーであちらこちら旅した時に、アフリカ・ドームにも立ち寄ったから、何かしたんじゃないかと思われているのかも知れない・・・」
「何かしたんですか?」
「してない!」
「だったら、心配ないでしょう。」

 ロッシーニはケンウッドと視線が合うと肩を竦めて見せた。誰もヴェルティエンに疑いを抱いたことなどなかったのだ。彼は文化人類学者だから、生化学フロアにさえ立ち入ったことがない。それにガブリエル・ブラコフとは気が合って兄弟みたいに仲が良かった。

「疾しいことなどないのですから、堂々と行ってらっしゃい。」

 ロッシーニは年長者らしくビシッと言い聞かせた。