ブラコフ副長官の後任候補は2名になった。1人は実地見学をして、行政上の仕事が多く研究者としての活動が難しいと判断して辞退したのだ。無理もないことだとケンウッドは思った。彼も副長官就任以来、研究者としての活動を殆ど出来ないでいた。長官になってからは、硏究着に袖を通したこともない。それなのに、ドームを卒業していく執政官達は皆異口同音に、「いつかケンウッド博士が女の子誕生の鍵を見つけて下さいますように」とお題目の様に唱えて去るのだ。
残された短い日々で後任を決めなければならないブラコフは2名を2週間ドームで実際に生活させることにした。秘書と共にドーマー達の管理をする訳だ。ドーマー達は決して新入りを甘やかしたりしない。候補者達は客ではないのだ。これから彼等自身の生活の便宜を図る仕事をする人間だから、甘い顔をしてはいけないと承知している。面倒臭い用事や細かな事柄に関する苦情や要求を遠慮なく副長官執務室に連絡してきた。
ブラコフは彼自身の身辺整理に忙しく、秘書と候補者に仕事を任せることにした。決して放置した訳ではないが、監視を怠ったかも知れない。
3日目に女性候補が明日宇宙へ帰ります、と伝えに来た。理由を問うと、男ばかりの世界にどうしても慣れないと言った。執政官には女性も多いし、出産管理区では女ばかりだと言ったが、出産管理区で寛ぐ訳ではないから、と言われた。彼女の専門分野の研究室が男性ばかりだったのも原因だった。研究者としての時間を持とうと硏究フロアに行っても、男世界で入って行けないのだと言う。部門によっては女性しかいないフロアもあるので、彼女は不運だった。彼女が孤独を感じてしまったことを、ブラコフは気づいてやれなかったと後悔した。
男性候補者はライバルがいなくなって頑張ったが、能力的にイマイチ、とブラコフには思えた。
「貴方は完璧を求め過ぎるのではありませんか?」
とケンウッドの秘書ジャクリーン・スメアが意見を言った。
「何もかも完璧に職務をこなせる人が副長官になったら、長官が却って気疲れされますよ。」
「そうかな?」
彼とスメアはコロニー人だけが利用できるバーで飲んでいた。ドーマーは金曜日の夜しか入店許可されないので、コロニー人しかいない。バーテンもコロニー人だ。しかしブラコフは金曜日にのみ登場するドーマーのバーテンダーが作るカクテルが大好きだった。今夜はコロニー人のバーテンダーしかいないので我慢だ。
「僕は不完全だった?」
「人間は誰でも不完全です。貴方が求めている完璧な人なんていません、と私は言いたいの。」
と、入り口に目をやったスメアが顔をしかめた。
「不完全の見本が来たわ・・・」
ブラコフがそちらを振り向くと、4、5名の執政官が入ってくるところだった。あまり硏究に熱心と言えない博士達で、経歴に箔を付ける為に働いているのだ。ドーマー達も相手にしない。彼等はテーブル席に陣取ると、いろいろと注文を始めた。
「ドーマーだけでなく、ああ言う研究者の管理もしないとね。」
とスメアが呟いた。ブラコフはコロニー人の管理は長官がしていてくれたなぁと思った。はっきり役割の線引きをしている訳ではないが、厄介な研究者の相手はケンウッドが引き受けていた。もしかすると、ケンウッドは副長官時代からそれをしていたのではなかろうか? 先代の長官ユリアン・リプリーは人間嫌いで、人員管理が苦手だった。
ブラコフが2杯目に手を付ける頃に、レイモンド・ハリスが入って来た。
残された短い日々で後任を決めなければならないブラコフは2名を2週間ドームで実際に生活させることにした。秘書と共にドーマー達の管理をする訳だ。ドーマー達は決して新入りを甘やかしたりしない。候補者達は客ではないのだ。これから彼等自身の生活の便宜を図る仕事をする人間だから、甘い顔をしてはいけないと承知している。面倒臭い用事や細かな事柄に関する苦情や要求を遠慮なく副長官執務室に連絡してきた。
ブラコフは彼自身の身辺整理に忙しく、秘書と候補者に仕事を任せることにした。決して放置した訳ではないが、監視を怠ったかも知れない。
3日目に女性候補が明日宇宙へ帰ります、と伝えに来た。理由を問うと、男ばかりの世界にどうしても慣れないと言った。執政官には女性も多いし、出産管理区では女ばかりだと言ったが、出産管理区で寛ぐ訳ではないから、と言われた。彼女の専門分野の研究室が男性ばかりだったのも原因だった。研究者としての時間を持とうと硏究フロアに行っても、男世界で入って行けないのだと言う。部門によっては女性しかいないフロアもあるので、彼女は不運だった。彼女が孤独を感じてしまったことを、ブラコフは気づいてやれなかったと後悔した。
男性候補者はライバルがいなくなって頑張ったが、能力的にイマイチ、とブラコフには思えた。
「貴方は完璧を求め過ぎるのではありませんか?」
とケンウッドの秘書ジャクリーン・スメアが意見を言った。
「何もかも完璧に職務をこなせる人が副長官になったら、長官が却って気疲れされますよ。」
「そうかな?」
彼とスメアはコロニー人だけが利用できるバーで飲んでいた。ドーマーは金曜日の夜しか入店許可されないので、コロニー人しかいない。バーテンもコロニー人だ。しかしブラコフは金曜日にのみ登場するドーマーのバーテンダーが作るカクテルが大好きだった。今夜はコロニー人のバーテンダーしかいないので我慢だ。
「僕は不完全だった?」
「人間は誰でも不完全です。貴方が求めている完璧な人なんていません、と私は言いたいの。」
と、入り口に目をやったスメアが顔をしかめた。
「不完全の見本が来たわ・・・」
ブラコフがそちらを振り向くと、4、5名の執政官が入ってくるところだった。あまり硏究に熱心と言えない博士達で、経歴に箔を付ける為に働いているのだ。ドーマー達も相手にしない。彼等はテーブル席に陣取ると、いろいろと注文を始めた。
「ドーマーだけでなく、ああ言う研究者の管理もしないとね。」
とスメアが呟いた。ブラコフはコロニー人の管理は長官がしていてくれたなぁと思った。はっきり役割の線引きをしている訳ではないが、厄介な研究者の相手はケンウッドが引き受けていた。もしかすると、ケンウッドは副長官時代からそれをしていたのではなかろうか? 先代の長官ユリアン・リプリーは人間嫌いで、人員管理が苦手だった。
ブラコフが2杯目に手を付ける頃に、レイモンド・ハリスが入って来た。