2018年4月29日日曜日

泥酔者 11 - 2

 ケンウッドとハイネの会話が途切れた。アイダ・サヤカ博士が近づいて来たからだ。彼女は男達が不自然に黙り込んだことに気が付いたが、気づかぬふりをして声を掛けた。

「もう重要なお話は終わりましたの?」
「ええ、終わりました。」

 ケンウッドは女性に聞かれたくない先刻の会話を頭から追い払った。そして彼女の服装が研究着を上に着ることを前提にしたラフなものであると見て取った。

「これから勤務に入られるのですか?」
「お昼を摂ってからです。2時間ばかり時間潰しで図書館に行こうと思っていましたが、ランバート博士が取り替え子のリストを作成したので遺伝子管理局に提出したいと申しまして・・・局長のご都合はいかがでしょう?」

 ハイネは時計を見て、その朝の仕事量を考えた。

「長官が昼前の打ち合わせ会をここで免除して下さるなら、11時に業務が終わるので、その時に。」

 まるでケンウッドが免除してくれるのを前提とした言い方だ。ケンウッドは苦笑した。

「さっきの話し合いで十分だね、局長。じっくり取り替え子の選定をしてくれたまえ。」
 
 ハイネは軽く頭を下げ、それからアイダを振り返って、「では11時に」と言った。アイダ博士も頷き、ケンウッドに会釈して議場から出て行った。
 彼女が出て行くと、ハイネ局長も立ち上がった。そしてケンウッドに挨拶して彼も出て行った。
 ケンウッドは奥の扉に向かって歩き始めた。そして傷心の副長官をどう励まそうかと考えていた。