2018年4月7日土曜日

泥酔者 7 - 3

 もう1人の秘書チャーリー・チャンが戻って来たのはダルフームが去った10分後だった。ケンウッドは本部に連絡を取ろうとしたが、スメアが昼食を済ませて下さいと言ったので、従うことにした。
 時間が遅かったので中央研究所の食堂へ行くと、丁度ブラコフが3名の候補者と共に食事をしていた。マジックミラー越しに出産管理区の女性達を観察しながらの食事だ。執政官として大切な仕事だが、ただの興味本位で見る男性執政官もいるので、ブラコフは候補者を観察しているのだった。
 ブラコフはケンウッドに気が付いたが、ここで候補者に紹介するつもりはないらしく、目で挨拶しただけだった。ケンウッドも頷いて、自分の食事を取ってテーブルを確保した。やっとありついた食事だが、ハリスの件を考えると美味しくない。アイダ博士とハイネ局長の問題が最善の形で解決したと言うのに、あの不可解な学者のせいで、またペースを乱された。
 
「長官、お一人ですかぁ?」

 陽気な声が後ろで聞こえ、振り向くとクロエル・ドーマーが立っていた。ポール・レイン・ドーマーに遅れること2ヶ月、彼も遂に幹部ドーマーとして、中米班チーフ副官に就任したのだ。30代中盤で幹部と言うのは順調に出世の階段を登っていると言うことだ。
 ケンウッドはクロエルも一人だと見て取ったので、自身のテーブルの対面を指した。クロエルは微笑んで素直にトレイをテーブルに置き、長官の正面に座った。

「アイダ博士、残ってくれるんですってね!」

 ドーマー達にアイダ・サヤカが辞表を提出した話を発表した覚えはなかったが、執政官の誰かがリークしたのだろう。そして辞表撤回もリークされたのだ。ケンウッドとアイダが地球に帰還したのが今朝だから、話が拡散するスピードは物凄く疾い。ドーマー達は不人気の執政官の動向には無関心だが、好きなコロニー人達がドームから去るかも知れないとなると、反応するのだ。アイダ・サヤカは多くの若いドーマー達にとって母親みたいな人だから、関心を集めるのは当然だ。クロエルは「途中から入って来た子」なので、アイダは注意を払って育てるよう養育係に要請した。そして時間が空けば一緒に遊んでやった。だからクロエルの非公式養母ラナ・ゴーン博士と彼女は仲が良いのだ。

 もしかすると、クロエルはゴーンよりアイダの方に懐いているのかも知れない・・・

 ケンウッドは頷いた。

「終身勤務を月から命じられたんだ。君達、彼女に心配かけるんじゃないぞ、彼女は本業の出産管理区の仕事で忙しいのだからな。」
「わかってますって。ボクちゃん、良い子ですからぁ!」

 候補者の女性がクロエルに気が付いた。春分祭のテレビ放映で有名になったドーマーが近くにいるので、ちょっと喜んだ様子だ。クロエルは候補者には無関心だった。いつもの一般食堂ではなく中央研究所の食堂に来た理由を訊かれてもいないのに説明した。

「フォーリー・ドーマーを探してたんすよ。」
「ビル・フォーリーを?」