2018年4月9日月曜日

泥酔者 8 - 2

 後ろを振り返ったハイネ局長は困惑の表情になった。

「何ですか、あれ?」

 食堂の入り口にアイダ・サヤカが現れたのだが、彼女はカートを押していた。通常は書類や薬品を運ぶ手押しのカートだ。その上にぬいぐるみや人形や何かモコモコした物が積み上げられていた。彼女のそばに居た執政官が声を掛け、彼女が何か答えると、その執政官は入り口から入ってすぐの壁を指差した。彼女は頷き、礼を言ったのだろう、ちょっと頭を下げて、カートをその壁の際に停めた。それから配膳コーナーへ歩いて行った。

「人形だろうなぁ・・・」

 ケンウッドも彼女がそんな物をカートに積んで現れた理由がわからない。支払いを済ませた彼女が食堂内を見回したので、彼はハイネの代わりに手を挙げて場所を示した。アイダがテーブルにやって来た。ケンウッドとハイネは立ち上がって彼女を迎えた。

「こんばんは、長官、局長。」
「こんばんは、アイダ博士。」
「こんばんは、博士。今朝空港で別れてから、随分長い時間が経った様な気がするよ。」
「私もです。」

 彼等は着席した。ケンウッドは既に料理に手をつけていたが、取り敢えず3人は葡萄ジュースで乾杯した。ハイネが興味深げに尋ねた。

「あのカートの品物は何です?」
「人形やぬいぐるみですよ。」
「それはわかっています・・・」
「ドームでお産をした女性達が時々送ってくれるのです。世話になったお礼とかで。保管場所がなかったので、私のオフィスに置いていたら、どんどん溜まってきてしまい、辞表を出した時に、あんな物が部屋にあったら次の区長が困るだろうと思って、片付けることにしました。綺麗な物は出産管理区に置いて、妊産婦達の励みになるインテリアにするつもりです。余った物は、養育棟に寄付します。選別の為に、部屋に持って帰るつもりなのです。」

 それから彼女は説明を補足した。

「贈り物の宛名は私だけではありません。執政官達やドーマー達のものもあります。彼等の了承を得て、私が処分と管理を任されたのです。」

 ハイネが不安そうに尋ねた。

「今夜、選別なさるのですか?」
「急がないので、日を掛けてゆっくりします。」

 ハイネの肩から力が抜けたので、ケンウッドはもう少しで笑うところだった。ローガン・ハイネは「新婚初夜」をぬいぐるみに奪われるのではないかと心配したのだ。