2018年4月3日火曜日

泥酔者 6 - 1

 シャトルは大気圏に突入すると速度を落とし、地球の上空を滑空するかの如く優雅に飛行した。緩やかに高度を下げ、最初に北部アフリカのカイロ宇宙港に降りた。そこで西ユーラシアやアフリカ、中央ユーラシア方面へ行く乗客が降りた。ラナ・ゴーン博士も2人の遅刻紳士達も降りて行った。彼等は宇宙港からそれぞれの目的地に向かう地上便の航空機に乗り換えるのだ。時間があれば最寄りの港から船で行くセレブもいるだろう。
 シャトルは再び飛び立ち、大西洋を超えてアメリカ・ドームの宇宙港に到着したのが夜明け前だった。ケンウッドとアイダは10人ばかりの客と共に降りた。宇宙から地球へ降りてくると、必ず簡易消毒を受ける。着衣のまま消毒薬のミストを吹き付けられ、走査検査で指定病原菌の感染の有無を検査され、それから通関だ。審査に通ると、人々はそれぞれの目的地に向かって航空機や地上車に乗り換える。ケンウッドとアイダがすぐ隣のドームへの通路を歩き出すと後ろに男性2名と女性1名が着いて来た。それぞれ小さな旅行用荷物を持っていた。副長官の面接を受ける人達だな、とケンウッドは察したがそれには言及せず、ドーム入り口の消毒ゲートの前に到着した。今度は本格的に体の中まで消毒されるので、男女入り口が別れる。
 アイダ・サヤカが先に口を開いた。

「私は直接出産管理区に入って休暇中の業務内容を確認します。そのまま業務に就きます。」

 ケンウッドは通路の外を見た。まだ空は暗いが1時間もしないうちに日が昇るだろう。

「私も執務室に直行しようと思うが、その前に朝食に行くかも知れない。」

 振り返ると彼女は食事のことは頭になかったようで、ハッとした表情をしていた。

「そんな時間なのですね。」
「そんな時間だよ、ちゃんと食べないとケンタロウに叱られる。」

 ではまた、と2人は挨拶して消毒ゲートの入り口で別れた。
 面倒臭いが消毒は大事だ。地球人の赤ん坊達を宇宙の細菌に感染させる訳に行かない。ケンウッドは慣れていたが、面接に来た候補者達は面食らっただろう。頭髪、手足の爪の中、鼻、耳の中、消化器官、呼吸器官、消毒出来る箇所は徹底的に浄化されるのだ。
 体がさっぱりとすると、新しい衣服が支給される。訪問者はこれも驚くのだ。外から着て来た服は洗濯・消毒されて半時間後には返せる状態になっている、と説明を受けて安心する迄は、持ち物全て預けて心もとない顔をしていた。