2018年4月16日月曜日

泥酔者 9 - 4

 ゲートでの消毒を終えて新しく支給された衣服を身につけながら、ポール・レイン・ドーマーは副官のクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーに尋ねた。

「さっき、外で君に話しかけたのは、収容中の女性の身内か?」
「いいえ、コロニー人です。」
「コロニー人?」

 レインは眉をひそめた。地球人の男性なら、遺伝子管理局に用事があってもおかしくない。お産で収容されている妻の様子を尋ねたり、妻帯許可申請を通してくれと嘆願するのだ。しかし、コロニー人が接触してくるのは珍しい。殆どあり得ない。コロニー人は直接ドームの中の人間と通信で話をする。

「観光に来た人か?」
「いいえ・・・ハリス博士はこのドームにいるかと訊いて来たのです。」
「ハリス・・・?」

 レインは忙しかったので、暫くあの問題児の学者の存在を忘れていた。ああ、まだあの男はここにいたのか、その程度の認識だった。

「博士の身内か?」
「そうは思えません。なんだかキナ臭い感じで、僕がドームの中の情報は言えないと言っても、しつこくいるのかいないのか教えて欲しいと言いました。博士を探してアフリカや西ユーラシアにも行ったとかで・・・」

 レインもワグナーも、レイモンド・ハリスが賭博に関わって借金を作り、返済出来ずに地球に亡命して来たとは夢にも思わなかった。しかし、地球を半周してまで探しているとなると、重要な要件なのだろう。
 ワグナーは、ハリスの身分がまだ未登録住民であるので正規住民にハリスはいないと答えた、とレインに告げた。
 レインはハリスを探している男達は、「追っ手」なのだろうと、見当がついた。何故ハリスが追われているのか知らないが、予定より1ヶ月も早く地球に来たこと自体がオカシイ。早く来なければならなかった理由があるのだ。
 ハリスは罪人か? ケンウッド長官達幹部は何か知っているだろうか?
 レインはメーカーの捜査に没頭したかった。セイヤーズ捜索を忘れた訳ではないが、たまには正規の任務に我を忘れて取り組みたい時もある。ハリスごときくだらないコロニー人の身を心配してやる暇はなかった。

「ハリスを探している人のことは、保安課か内務捜査班にでも報告しておけば良い。あの先生には関わるなと局長から通達があっただろう?」
「そうでしたね。」

 ワグナーは、たまには内務捜査班のオフィスを覗いて見ようか、と暢気に考えた。