レイモンド・ハリスは1人でカウンターの端っこに座り、ウィスキーを注文した。誰とも約束をしていないようで、出入りする人々に関心を向けなかった。だからブラコフもスメアも彼の存在をすぐに忘れた。
「要するに、ドーマー達と仲良くやれるかどうかじゃないかしら?」
とスメアは言った。
「私だって、秘書として優秀だなんて言えないわ。学校では単位を落としたこともあるし、最初に勤めた会社ではお得意様を怒らせて10日でクビになったのよ。でも地球人類復活委員会は私が誰とでも気さくに付き合える人間だって、それだけを高く評価してくれたの。」
「本当にそれだけ?」
ブラコフは笑った。
「君は優秀だよ。書類整理も文書作成も、人間関係の調停も。それに長官の身の回りのこともしっかり面倒見てくれる。」
「それはチャーリーよ。彼がサポートしてくれるから、私は今日迄やって来られたの。」
スメアはほんのり頰を赤らめた。お酒のせいではあるまい。
「君は努力している。だから周囲の人間も君を助けてくれるんだ。努力しない人に手を差し伸べるのは馬鹿げているからね。」
「では、今の候補者も努力しているのよ、認めてあげれば?」
「君は彼が次の副長官にふさわしいと?」
「そうは言ってない。でも貴方が彼をふさわしい人間に育てることは出来るわ。」
「でも後一月しかないんだぜ?」
スメアが言うところの「不完全な」執政官の1人が席を発ってハリスに近くのが見えた。ハリスはいろいろな酒を試していて、既に5杯目だった。飲むペースが速い男だ。近づいた男が何か話しかけた。ハリスがそれを適当に返答していなそうとした。相手は彼の返答内容が気に入らなかった様だ。また何か言い、ハリスと言葉のやりとりを始めた。
ブラコフは気づかないふりをした。バーは「私生活」の場所だ。ここを取り締まるのは保安課で、執政官同士の良識に任されている。客同士の間で不穏な空気が生まれると、バーテンダーが止めに入るか、保安課に連絡を入れるのだ。ハリスともう1人の執政官との間の会話の内容が聞こえないし、喧嘩をしている雰囲気ではなかったので、彼はまたスメアとの会話に戻った。
「君は彼のどこを長所と見る? どこが彼に欠けている?」
「あら、私に訊くの? 判定するのは貴方なのよ。」
「そうだけど・・・」
クスッとスメアが笑った。
「要するに、貴方は副長官の座を誰にも渡したくないのね。だから誰もが不合格に見えるのだわ。」
「そんなことはない・・・」
「私の前任者のロッシーニ・ドーマーはあっさりと席を譲ってくれたわ。彼の目から見れば私は足らないところだらけで、今もきっとそうなのでしょうけど、でもあの人は往生際が良い人だった。」
「ロッシーニ・ドーマーはまだここにいるし、君が困難に直面すればいつでも助け舟を出せると思ったからじゃないか?」
「そうは思わない。彼は執務室に一度も戻って来ないもの。ずっと教育棟で子供達の教育にエネルギーを注いでいるわ。秘書の仕事は完全にチャーリーと私のもので彼は口出しすべきでないと信じているのよ。だから、貴方も彼に副長官の椅子を譲ったら?」
その時、カウンターの端っこでハリスが声を荒げた。
「要するに、ドーマー達と仲良くやれるかどうかじゃないかしら?」
とスメアは言った。
「私だって、秘書として優秀だなんて言えないわ。学校では単位を落としたこともあるし、最初に勤めた会社ではお得意様を怒らせて10日でクビになったのよ。でも地球人類復活委員会は私が誰とでも気さくに付き合える人間だって、それだけを高く評価してくれたの。」
「本当にそれだけ?」
ブラコフは笑った。
「君は優秀だよ。書類整理も文書作成も、人間関係の調停も。それに長官の身の回りのこともしっかり面倒見てくれる。」
「それはチャーリーよ。彼がサポートしてくれるから、私は今日迄やって来られたの。」
スメアはほんのり頰を赤らめた。お酒のせいではあるまい。
「君は努力している。だから周囲の人間も君を助けてくれるんだ。努力しない人に手を差し伸べるのは馬鹿げているからね。」
「では、今の候補者も努力しているのよ、認めてあげれば?」
「君は彼が次の副長官にふさわしいと?」
「そうは言ってない。でも貴方が彼をふさわしい人間に育てることは出来るわ。」
「でも後一月しかないんだぜ?」
スメアが言うところの「不完全な」執政官の1人が席を発ってハリスに近くのが見えた。ハリスはいろいろな酒を試していて、既に5杯目だった。飲むペースが速い男だ。近づいた男が何か話しかけた。ハリスがそれを適当に返答していなそうとした。相手は彼の返答内容が気に入らなかった様だ。また何か言い、ハリスと言葉のやりとりを始めた。
ブラコフは気づかないふりをした。バーは「私生活」の場所だ。ここを取り締まるのは保安課で、執政官同士の良識に任されている。客同士の間で不穏な空気が生まれると、バーテンダーが止めに入るか、保安課に連絡を入れるのだ。ハリスともう1人の執政官との間の会話の内容が聞こえないし、喧嘩をしている雰囲気ではなかったので、彼はまたスメアとの会話に戻った。
「君は彼のどこを長所と見る? どこが彼に欠けている?」
「あら、私に訊くの? 判定するのは貴方なのよ。」
「そうだけど・・・」
クスッとスメアが笑った。
「要するに、貴方は副長官の座を誰にも渡したくないのね。だから誰もが不合格に見えるのだわ。」
「そんなことはない・・・」
「私の前任者のロッシーニ・ドーマーはあっさりと席を譲ってくれたわ。彼の目から見れば私は足らないところだらけで、今もきっとそうなのでしょうけど、でもあの人は往生際が良い人だった。」
「ロッシーニ・ドーマーはまだここにいるし、君が困難に直面すればいつでも助け舟を出せると思ったからじゃないか?」
「そうは思わない。彼は執務室に一度も戻って来ないもの。ずっと教育棟で子供達の教育にエネルギーを注いでいるわ。秘書の仕事は完全にチャーリーと私のもので彼は口出しすべきでないと信じているのよ。だから、貴方も彼に副長官の椅子を譲ったら?」
その時、カウンターの端っこでハリスが声を荒げた。