2018年4月30日月曜日

泥酔者 11 - 3

 ケンウッドが日常の業務を始めて半時間経たぬうちに月の本部から通信が入った。相手がロベルタ・ベルトリッチ委員長だったので、ケンウッドは乱闘騒ぎが耳に入ったのかと一瞬ドキリとした。

「おはよう! 時刻はこの挨拶で合ってますか?」

 ベルトリッチは相変わらず艶っぽいぷっくりとした唇を優しく動かして尋ねた。ケンウッドは「おはようございます」と挨拶を返して返答代わりにした。委員長自らわざわざどんな用事なのかと目で問うと、彼女はちょっと微笑みを消して真面目な表情になった。

「ブラコフ副長官の後任は決まりましたか?」
「候補者が1名になりましたので、現在研修中です。恐らく彼に決まるでしょう。」

 ケンウッドが候補者の名前を呼ばないので、ベルトリッチが少し憂い顔を見せた。

「あまり歓迎していない様子ですね、長官。」
「私が・・・ですか?」

 ケンウッドは心外なと言いたげに眉を上げて見せた。

「ええ、貴方の部下になる人を決めるのですよ。」
「そうですが・・・ブラコフに一任していますので。」
「そのブラコフ君が決めかねているのではありませんか? だから貴方は相手の名前を覚えようとしない・・・」
「そ・・・そう言う訳では・・・」
「では、地球人側が不承知?」
「いえ、そう言う訳では・・・」

 突然ベルトリッチが破顔した。

「要するに、貴方もハイネもブラコフを手放したくないのでしょう?」

 ケンウッドは赤面した。ベルトリッチはあまり彼をいじめても気の毒だと思ったので、その話はそこで切り上げることにした。

「実は、副長官の後任にもう1人候補ができました。でもその話はまた後日にします。それより、厄介なイベントがアメリカ・ドームに回ってきましたよ。」
「厄介?」

 ケンウッドは一瞬考え込んだ。今抱えている厄介なことは、借金の取り立て屋に追われている執政官と、酒の席で乱闘した執政官と・・・同一人物だった。
 ベルトリッチはケンウッド長官の予想外のことを口に出した。

「スポンサー様の視察団がアメリカに行きます。四日後ですから、よろしくお願いします。」
「四日後?」

 ケンウッドはびっくりした。

「急じゃありませんか?」
「抜き打ちですから、そう言うものです。」

 ベルトリッチはにっこり笑った。

「白いドーマーを隠すことを忘れないでね、長官。」