2018年4月1日日曜日

泥酔者 5 - 4

 地球人類復活委員会本部の来賓室で、ケンウッドとアイダ・サヤカは落ち着かない時間を過ごして居た。アイダがハイネに断りもなく地球を出て来てしまったことを後悔しているのが、ケンウッドに伝わってきたが、彼も何も有効なことをしてやれなかった。もし委員会の採決で、彼女とハイネの婚姻を認めず、彼女の罷免が決定すれば、彼女はもう地球行きのシャトルには乗れないのだ。そしてケンウッドも長官と言う立場が危うくなる可能性があった。降格で済めば良いが、罷免もあり得る、と彼は今更ながら思い、気が重くなった。役職に固執する訳でないが、長官でなくなれば友人達を守ってやれない。
 時間が流れ、軽い食事が出た。ケンウッドは窓の外の地球を見た。アメリカではもう夜が明けた。長官業務を怠ることになるが、戻れないのでは仕方がない。またブラコフや秘書達に負担をかけるなぁと彼は思った。
 そんな彼の思いをアイダは敏感に察した。

「私事で貴方の貴重なお時間を使わせてしまい、申し訳ありません。」

と謝った。ケンウッドは振り返り、手を振って否定した。

「いやいや、1日ぐらい私がいなくても地球は回っていますし、女の子はまだ生まれないでしょう。」

 そして彼も謝った。

「有効な説得手段もないのに貴女を地球から連れ出してしまい、出産管理区に迷惑をかけてしまったのは、私の方です。申し訳ない。」

 彼は時計を見た。会議が始まって3時間経つ。

「私は少し外の空気を吸ってきます。貴女はここで横になって休んで下さい。半時間もすれば戻りますから。」

 幽閉されているのではないので、部屋からの出入りは自由だ。ケンウッドは通路に出た。書類を運ぶロボットが行き来する通路を歩き、数人の職員と挨拶を交わしたが、見知った人とは出会わなかった。出会ったとしても、今回の問題に役に立たないだろう。委員会も世代交代している。ベルトリッチはケンウッドの世代だから考え方は柔軟だが、熱烈なハイネファンとは言い難い。ハイネの我儘を聞いてくれると期待してはいけない。
 ヘンリー・パーシバルがここに居たら、何と言うだろうか。ハイネの結婚を認めてやれと言うだろうか? それとも彼女を苦境に立たせたくなければ諦めろと言うか?
 議場の近く迄行くと賑やかな声が聞こえて来た。通路に委員会のメンバー達が出ており、休憩しているのだった。会議の議題が必ずしもドーマーと執政官の結婚問題だけとは限るまい。ケンウッドは意を決して彼等の側へ歩いて行った。