2018年4月1日日曜日

泥酔者 5 - 5

 会議出席者達と世間話をしてみたが、ドーマーの結婚問題が議題に上がっている様子はなかった。人々はケンウッドがアメリカ・ドームの長官だと気づくと、3年前のテロ事件のことを持ち出し、その後はどうしているのか、副長官と遺伝子管理局長は元気かと尋ねた。それから次の春分祭はどんな扮装をするのかと言う無駄な質問もあったが、ケンウッドが知りたい情報はなかった。
 ベルトリッチは結婚を個人的問題と見做しているのだろう。
 会議再開の時間になったので、ケンウッドは来賓室に戻った。アイダ・サヤカは長椅子に横になって居たが眠ってはいなかった。彼が入ると起き上がったので、ケンウッドは申し訳なく感じた。

「会議では、貴女方の話題は出ていないようです。」
「予算が先なのでしょう。」
「私の顔を見るとすぐに3年前のテロの話題を出して来たので、議題はセキュリティ強化に関係することの様です。」

 それから2人はやっとテーブルの上の食べ物に手を付けた。合成蛋白質のステーキを口に入れて、アイダが呟いた。

「子供の時から食べている筈なのに、美味しくないわ。」
「私もです。」

 それから1時間ほど2人は仮眠を取った。ベルトリッチから委員長執務室へ来るようにと連絡が入った時は、危うく熟睡する寸前だった。急いで彼等は顔を洗い、アイダは化粧を整えて執務室へ向かった。
 ベルトリッチの部屋には、思いの外、人が多かった。委員長、副委員長、書記長、理事長、理事5名の委員会幹部の他に、初対面の中年の女性がいた。初対面だが、ケンウッドは彼女を知っていた。宇宙連邦では有名な女性だ。

「火星第2コロニーの行政長官で、航宙艦造船で有名なスパイラル工業のCEOでもある、アリス・ローズマリー・セイヤーズ女史です。」

とベルトリッチ委員長が紹介した。アイダが口の中で「セイヤーズ?」と呟いたが、それ以上の発言はなかった。スパイラル工業は大企業だ。そして地球人類復活委員会の最大の出資者様だった。
 空いた席に座るよう促され、ケンウッドとアイダは並んで座った。
 委員長が、出席者に既に例の問題の概要を語ったと説明した。理事長がケンウッドに向かって言った。

「ドーマーが結婚することに反対はしない。」

 そしてアイダに向かって言った。

「貴女の幸せを邪魔したくもない。だから、我々は、法律の穴を探る話し合いをする。よろしいか?」