2018年4月7日土曜日

泥酔者 7 - 6

 昼食を終えるとケンウッドは執務室に戻った。秘書達が午後の予定を教えてくれた以外は特に何もない。執務机の前に座ると、月の本部に通信を送った。人事の役員を呼び出してもらう。1分後、人事のゴッドフリー・シャベス委員が画面に現れた。

「アイダ・サヤカの問題は解決したと聞きましたが、ケンウッド長官?」
「彼女の話ではありません。レイモンド・ハリス博士のことで連絡させていただいています。」
「レイモンド・ハリス?」

 シャベスが考え込んだ。

「そんな執政官がいましたか?」
「まだ正式に着任していません、4日後の執政官会議で任官予定です。」
「あー、ちょっと待って下さい。」

 シャベスがコンピュータを操作した。

「確かに、まだ火星にいますね。」
「火星にいる?」

 ケンウッドは思わず聞き返した。

「まだ火星にいるのですか、ハリス博士は?」
「その筈ですが・・・ドーム勤務予定者の地球渡航は任官前日でなければ許可が下りませんから。」
「では・・・」

 ケンウッドは困惑した。

「先月ここに現れて、現在当ドームに滞在しているレイモンド・ハリス博士は何者でしょう?」

 シャベスがカメラを振り返った。明らかに驚いていた。

「現在アメリカ・ドームにレイモンド・ハリスがいるのですか?」
「日付を間違えてそのまま居座っていますが・・・」
「任官時期より1ヶ月も早かったのに、ゲートは彼を通したのですか?」
「彼は引越しの荷物を抱えており、着任予定であることは保安課のドーマー達に通達が行っていましたので、係は追い返すのは気の毒だと思ったらしいのです。」

 シャベスが天を仰いだ。

「ケンウッド長官、ドームの規則をご承知ですよね?」
「十分承知しています。私が彼の到着を知った時、彼は私の部屋に来ていたのです。」

 シャベスがカメラに向き直った。

「仕方ありませんね・・・ドーマー達の安全が守られているのでしたら、こちらは何も文句をつけられません。」
「それが、一つ問題がありまして・・・」
「何です?」
「ハリスの無断来星から1ヶ月経って通報したのには理由があります。彼のプロフィールに疑問が生じたのです。」
「疑問とは?」
「委員会からの紹介では、彼は紫外線と染色体の関係の研究者となっています。」

 シャベスは再びコンピュータの画面を確認した。

「その通りです。」
「しかし、ドーマーが見つけたのですが、彼の公式サイトでは・・・」
「ちょっと待って下さい。」

 シャベスはケンウッドがそれまで気がつかなかった点を指摘した。

「ドーマーが何を見つけたと仰いました? ハリスの公式サイト? 地球外のサイトをドーマーが覗けるのですか?」

 あちゃーっとケンウッドは心の中で悔やんだ。アメリカ・ドームのネットセキュリティはどうなっているのだ?