2018年4月11日水曜日

泥酔者 8 - 4

 次の日、ケンウッドは久しぶりに「普通の日」を過ごした。朝起きると早朝運動に出て、シャワーを浴びて朝食を摂り、執務室で仕事をした。
 月の本部からレイモンド・ハリスの経歴に関する返答が来たが、それは深刻な問題と思えない内容だった。
 ハリスの専門は「骨の形成」。しかし彼は博打や借金で職場に長く居られないと自覚したのだろう。地球へ亡命する為に、地球人類復活委員会が求める染色体の研究者となる為に通信講座で勉強を始めた。彼が選んだテーマが「紫外線と染色体」だったのだ。取り立て屋から逃げる為に、本来の専門を敢えて口に出さずに、まだ学生の段階でしかない副専攻を看板に掲げている訳だ。
 ケンウッドは執務室に遺伝子管理局内務捜査班チーフ、ビル・フォーリー・ドーマーを呼んで、この件を伝えた。フォーリーはハリスが様々なところで住人に不愉快な思いをさせているので、借金や博打や飲酒、経歴詐称と聞いても驚かなかった。

「真面目に研究されるのでしたら、我々は長官の判断に従う迄です。」
「私は彼を上手く使いこなす自信がないよ。」

 ケンウッドは珍しく弱音を吐いた。

「あの男は不愉快だが法的に違反をした訳じゃない。追い出したくても追い出せないのだ。」

 フォーリーは滅多に感情を顔に出さない。しかし目に同情の眼差しを浮かべた。

「うちのボスの様に無視なさる訳に行かないのですな。」
「遺伝子管理局とハリスは今の所接点がないからなぁ。」
「それに取り立て屋に捕まると、あの男の生命は危険に曝されるのですな?」
「うん。」