食事中の話題はその日生まれた赤ちゃん達の話だった。アイダは嬉しそうに赤ん坊の誕生の瞬間の話をするが、ハイネはちょっと退いている。帝王切開の出産シーンを一度目撃して以来、少々苦手意識を持っているのだ。ケンウッドは興味があったが、男があまり熱心に聞くのもどうかと自身でセーブして、突っ込んだ質問はしなかった。
「しかし、今日の赤ん坊達が全員丈夫な子達で良かったですね。」
ケンウッドは、そのうちの何人が取り替え子で養子に出されるのだろうと思ったが、口に出さなかった。ハイネは明日の朝一番の仕事の対象なので、頭の中で話題に登った新生児の数を数えていた。そして徐に言った。
「予定より3人多かったのですね。」
アイダが頷いた。
「予定日より遅れて産まれた子が5人、今日産まれなかった子が2人、差し引きで3人多くなりました。早産はありませんでした。」
ケンウッドが苦笑した。
「これでは世間話なのか業務報告なのか、わからないな。」
「申し訳ありません。私は根っからの産科医ですので。」
アイダも笑った。ハイネはそんな彼女の笑顔を見て微笑した。
食事が終わると、ケンウッドは眠気を感じた。
「今日は疲れたので、運動をサボらせてもらいます。アパートに帰って寝ますよ。」
「私も右に同じです。」
アイダもそう言うので、ハイネはちょっと考えるふりをした。
「私も今朝は普段より早起きしたので、休みたいと思います。」
3人共同じ妻帯者用アパートで一人暮らしをしているのだ。ケンウッドは後の2人が2人だけになりたいだろうと思いつつも、結局3人揃って帰ることにした。帰る、と言ってもアイダ・サヤカにとっては初めて入る部屋なのだが。
人形で満載のカートを押す彼女を挟んでケンウッドとハイネはゆったりとした歩調でアパートに向かって歩いた。途中で出会った人々が人形を見て驚き、ある者は欲しがったので、アイダは好きな物を取って下さい、とサービスしながら歩いた。
お陰で、歩いても10分足らずの距離を半時間掛けてしまった。
エレベータで3階迄登った。ハイネの部屋は最上階だが、彼はケンウッドとアイダと共に3階で降りた。お休みの挨拶をして、ケンウッドは自室のドアを開けた。するとハイネが、一度はアイダの部屋の方向へ行きかけたのに、向きを変えて彼の後ろをついて部屋に入ってきた。
どうした?とケンウッドが尋ねようとした時、通路の向こうでクラウス・フォン・ワグナーがアイダに挨拶する声が聞こえた。ワグナー夫妻はアイダの新しい部屋のお隣さんなのだ。ハイネは部下と鉢合わせしたくなくて、慌ててケンウッドの部屋に退避したのだ。
可愛いヤツだ、とケンウッドは心の中で笑った。これからは、度々局長が3階を訪問する口実に使われるのだろう。
ケンウッドは疲れていたので、ハイネにも来客用の狭い部屋を使って良いと言ってから、その部屋が彼のコレクションの倉庫になっていることを思い出した。
ハイネは小部屋の書棚に並ぶ女性の形の人形を眺めた。色々な人形が並んでいる。全部地球製で、それも伝統的な工芸品だ。美術品の範疇に入るものもあるが、高価なので数は少ない。几帳面にケンウッドはそれらを購入したり贈られたりした日付や場所、贈り主、製作者などを記録したタグを付けていた。
ケンウッドは訊かれもしないのに説明した。
「出張で地球の各地へ行った時に購入したんだ。土産物店で売っている安物が殆どだよ。女性が生まれない惑星であっても、人形は女性の形が主流なんだ。きっと古代から、人形は女の子の成長を願うその土地その土地の文化の表れなのだろうね。」
ハイネは土偶のイミテーションを眺めた。
「これも女性ですか?」
「女性だ。きっと母親を表している。子孫繁栄や、作物の豊かな実りを祈願したのだろう。」
好きにしなさい、と言って、ケンウッドはシャワーを浴びた。浴室から出ると、もうハイネは姿を消していた。自室に帰ったのか、彼女の部屋に行ったのか、それは不明だったが、ケンウッドは詮索するつもりもなく、ベッドに直行した。
「しかし、今日の赤ん坊達が全員丈夫な子達で良かったですね。」
ケンウッドは、そのうちの何人が取り替え子で養子に出されるのだろうと思ったが、口に出さなかった。ハイネは明日の朝一番の仕事の対象なので、頭の中で話題に登った新生児の数を数えていた。そして徐に言った。
「予定より3人多かったのですね。」
アイダが頷いた。
「予定日より遅れて産まれた子が5人、今日産まれなかった子が2人、差し引きで3人多くなりました。早産はありませんでした。」
ケンウッドが苦笑した。
「これでは世間話なのか業務報告なのか、わからないな。」
「申し訳ありません。私は根っからの産科医ですので。」
アイダも笑った。ハイネはそんな彼女の笑顔を見て微笑した。
食事が終わると、ケンウッドは眠気を感じた。
「今日は疲れたので、運動をサボらせてもらいます。アパートに帰って寝ますよ。」
「私も右に同じです。」
アイダもそう言うので、ハイネはちょっと考えるふりをした。
「私も今朝は普段より早起きしたので、休みたいと思います。」
3人共同じ妻帯者用アパートで一人暮らしをしているのだ。ケンウッドは後の2人が2人だけになりたいだろうと思いつつも、結局3人揃って帰ることにした。帰る、と言ってもアイダ・サヤカにとっては初めて入る部屋なのだが。
人形で満載のカートを押す彼女を挟んでケンウッドとハイネはゆったりとした歩調でアパートに向かって歩いた。途中で出会った人々が人形を見て驚き、ある者は欲しがったので、アイダは好きな物を取って下さい、とサービスしながら歩いた。
お陰で、歩いても10分足らずの距離を半時間掛けてしまった。
エレベータで3階迄登った。ハイネの部屋は最上階だが、彼はケンウッドとアイダと共に3階で降りた。お休みの挨拶をして、ケンウッドは自室のドアを開けた。するとハイネが、一度はアイダの部屋の方向へ行きかけたのに、向きを変えて彼の後ろをついて部屋に入ってきた。
どうした?とケンウッドが尋ねようとした時、通路の向こうでクラウス・フォン・ワグナーがアイダに挨拶する声が聞こえた。ワグナー夫妻はアイダの新しい部屋のお隣さんなのだ。ハイネは部下と鉢合わせしたくなくて、慌ててケンウッドの部屋に退避したのだ。
可愛いヤツだ、とケンウッドは心の中で笑った。これからは、度々局長が3階を訪問する口実に使われるのだろう。
ケンウッドは疲れていたので、ハイネにも来客用の狭い部屋を使って良いと言ってから、その部屋が彼のコレクションの倉庫になっていることを思い出した。
ハイネは小部屋の書棚に並ぶ女性の形の人形を眺めた。色々な人形が並んでいる。全部地球製で、それも伝統的な工芸品だ。美術品の範疇に入るものもあるが、高価なので数は少ない。几帳面にケンウッドはそれらを購入したり贈られたりした日付や場所、贈り主、製作者などを記録したタグを付けていた。
ケンウッドは訊かれもしないのに説明した。
「出張で地球の各地へ行った時に購入したんだ。土産物店で売っている安物が殆どだよ。女性が生まれない惑星であっても、人形は女性の形が主流なんだ。きっと古代から、人形は女の子の成長を願うその土地その土地の文化の表れなのだろうね。」
ハイネは土偶のイミテーションを眺めた。
「これも女性ですか?」
「女性だ。きっと母親を表している。子孫繁栄や、作物の豊かな実りを祈願したのだろう。」
好きにしなさい、と言って、ケンウッドはシャワーを浴びた。浴室から出ると、もうハイネは姿を消していた。自室に帰ったのか、彼女の部屋に行ったのか、それは不明だったが、ケンウッドは詮索するつもりもなく、ベッドに直行した。