「失礼ながら、アイダ博士はまだ妊娠可能なお体なのでしょう?」
ベルトリッチが尋ねた。アイダ・サヤカが頬を赤く染めて頷いた。
「既に閉経しましたが、体力的には出産可能です。」
女性に何と言うことを言わせるのだ、とケンウッドが心の中で憤慨すると、副委員長が言った。
「ローガン・ハイネはまだ男性の能力を保っていますね。彼の子供は、女の子であれば待機型の進化型1級遺伝子を、男の子であれば白変種の遺伝子を持って生まれます。どちらであれ、ドームの外には出せない子供です。ですから、彼の子供を作らせずに来ました。これからも作る予定はありません。彼と結婚するなら、それを心得ていて頂きたい。」
アイダが固い表情で首を振った。
「承知しています。私は出産管理区の責任者です。」
「失礼しました。」
今度は理事長が発言した。
「地球上の各地のドームから、同様の要求が出ていることはご存知か? ドーマーとコロニー人が恋愛をしているので認めて欲しい、と言う要求だ。だが、地球人保護法を遵守する立場として慎むよう、言い聞かせている。アメリカ・ドームには、サンテシマ・ルイス・リンの例がある。執政官がドーマーをペット扱いしてドームの秩序を混乱させた件だ。地球人を弱い立場に追い込んでしまうことは避けねばならない。」
「理事長、今はそんなことを話しているのでは・・・」
「わかっているよ、委員長。私が言いたいのは、アイダ博士とローガン・ハイネに、2人の関係を公にしないよう、慎めと言うことだ。」
ケンウッドは「慎め?」と呟いた。
「慎めとは、人前では夫婦として振る舞うな、と言うことですか?」
「そうだ、難しくはないだろう?」
理事長が端末を見た。
「アイダ博士は出産管理区の業務で居住区に居る時間が短い。ローガン・ハイネも彼の業務で忙しい。2人が一緒に過ごす時間はそれほど多くない。これまで通りの生活を続ければ、誰も君達が夫婦だとは気がつくまい。」
「しかし・・・夫婦生活も大事です・・・同居しないで夫婦生活は無理でしょう。」
ケンウッドの頭に閃くことがあった。彼はアイダを振り返った。
「アイダ博士、アパートを引っ越しなさい。」
「え?」
「貴女は今女性専用アパートに住んでおられる。ハイネは妻帯者用アパートだ。だから、貴女も妻帯者用アパートに部屋を移すのです。貴女は出産管理区長だから、非公式会合で部屋を使用する機会もあるでしょう。」
それは出産管理区で行える、と言おうとしてアイダは思い直した。ケンウッドは、同じ建物に入居していれば人目を忍んで互いの部屋に行ける、と提案してくれたのだ。会合云々は広い部屋に移る言い訳だ。ケンウッドが続けた。
「私も3年前迄は独身者用に住んでいました。しかし、ある時、ドーマーの長老達と非公式に会合を持ったら、部屋が狭いと呆れられまして・・・翌日勝手に妻帯者用に宿替えさせられました。ドームでは妻帯者が少ないので、部屋が空いてるのです。アイダ博士が引っ越しても誰も気にしません。」
ベルトリッチが微笑んだ。
「特例はお嫌だと思いますが、現在の法律を潜り抜けるにはこれしかありません。アイダ博士に終身勤務を命じます。これまで通り、重力休暇を定期的に取って下さい。火星のお子さん達とお会いになっても構いません。しかし、決してドーマーを伴侶にして居ることは口外なさらぬよう、願います。」
ベルトリッチが尋ねた。アイダ・サヤカが頬を赤く染めて頷いた。
「既に閉経しましたが、体力的には出産可能です。」
女性に何と言うことを言わせるのだ、とケンウッドが心の中で憤慨すると、副委員長が言った。
「ローガン・ハイネはまだ男性の能力を保っていますね。彼の子供は、女の子であれば待機型の進化型1級遺伝子を、男の子であれば白変種の遺伝子を持って生まれます。どちらであれ、ドームの外には出せない子供です。ですから、彼の子供を作らせずに来ました。これからも作る予定はありません。彼と結婚するなら、それを心得ていて頂きたい。」
アイダが固い表情で首を振った。
「承知しています。私は出産管理区の責任者です。」
「失礼しました。」
今度は理事長が発言した。
「地球上の各地のドームから、同様の要求が出ていることはご存知か? ドーマーとコロニー人が恋愛をしているので認めて欲しい、と言う要求だ。だが、地球人保護法を遵守する立場として慎むよう、言い聞かせている。アメリカ・ドームには、サンテシマ・ルイス・リンの例がある。執政官がドーマーをペット扱いしてドームの秩序を混乱させた件だ。地球人を弱い立場に追い込んでしまうことは避けねばならない。」
「理事長、今はそんなことを話しているのでは・・・」
「わかっているよ、委員長。私が言いたいのは、アイダ博士とローガン・ハイネに、2人の関係を公にしないよう、慎めと言うことだ。」
ケンウッドは「慎め?」と呟いた。
「慎めとは、人前では夫婦として振る舞うな、と言うことですか?」
「そうだ、難しくはないだろう?」
理事長が端末を見た。
「アイダ博士は出産管理区の業務で居住区に居る時間が短い。ローガン・ハイネも彼の業務で忙しい。2人が一緒に過ごす時間はそれほど多くない。これまで通りの生活を続ければ、誰も君達が夫婦だとは気がつくまい。」
「しかし・・・夫婦生活も大事です・・・同居しないで夫婦生活は無理でしょう。」
ケンウッドの頭に閃くことがあった。彼はアイダを振り返った。
「アイダ博士、アパートを引っ越しなさい。」
「え?」
「貴女は今女性専用アパートに住んでおられる。ハイネは妻帯者用アパートだ。だから、貴女も妻帯者用アパートに部屋を移すのです。貴女は出産管理区長だから、非公式会合で部屋を使用する機会もあるでしょう。」
それは出産管理区で行える、と言おうとしてアイダは思い直した。ケンウッドは、同じ建物に入居していれば人目を忍んで互いの部屋に行ける、と提案してくれたのだ。会合云々は広い部屋に移る言い訳だ。ケンウッドが続けた。
「私も3年前迄は独身者用に住んでいました。しかし、ある時、ドーマーの長老達と非公式に会合を持ったら、部屋が狭いと呆れられまして・・・翌日勝手に妻帯者用に宿替えさせられました。ドームでは妻帯者が少ないので、部屋が空いてるのです。アイダ博士が引っ越しても誰も気にしません。」
ベルトリッチが微笑んだ。
「特例はお嫌だと思いますが、現在の法律を潜り抜けるにはこれしかありません。アイダ博士に終身勤務を命じます。これまで通り、重力休暇を定期的に取って下さい。火星のお子さん達とお会いになっても構いません。しかし、決してドーマーを伴侶にして居ることは口外なさらぬよう、願います。」