2018年4月26日木曜日

泥酔者 10 - 6

「どこかのドームに宛でもあるのかね?」

 ケンウッドの質問にハイネは少し考えた。

「西ユーラシアはシベリア地区を抱えていますから、衛星データで集落を観察しています。ロシア政府の軍事衛星のデータですが、遺伝子管理局が政府が把握していない集落などを見つけたり観察するので人件費が浮くと考えられているそうです。」
「それでデータ解析を任されているのか・・・他には?」
「南・東南アジア・ドームも島が多いので衛星データを使っています。」

 ケンウッドはギクリとした。

「うちの管轄にもカリブ海があるが・・・」
「中米班が積極的に飛び回っていますので、衛星データは必要ないのです。」
「そうか・・・」
「寧ろ、南米のジャングル地帯の監視に衛星が必要です。分室だけでは住人の管理が難しいです。」
「そうだな・・・」

 実際、南米地区は違法メーカーが多い。クローンも大勢いるし、クロエル・ドーマーの様な父親不明の子供も沢山生まれている。

「衛星データ分析官の育成を考えよう。アメリカ政府に頼んで講師を雇っても良い。衛星はアメリカのもので構わないのだろう?」
「勿論です。」
「では、その方向で計画を立てる。さて、ドーマー交換の方だが、執政官会議で了承を得なければならない。君が提案をする形になるが、良いか?」
「執政官達の前で演説せよと仰せですか? わかりました、簡潔に理由を語って皆さんに納得していただきましょう。」
「交換と言うからには、先方のドームも見返りに誰かを寄越せと言うだろうな・・・」

 ハイネは頷いた。彼は長い人生の中で仲間がドーマー交換で去って行くのを幾度となく見送ってきた。執政官が研究の為に提案し、遺伝子管理局はその理由に違法性が認められなければ交換を承認せざるを得ない。遺伝子管理局が承認すれば、ドーマー当人が余程拒否しない限り交換は行われる。
 今回は遺伝子管理局の局員から要請があった交換だ。異例と言えば異例だ。必要な才能をもらう代わりに、生まれた時から一緒に暮らしてきた仲間を譲る。
 ハイネは言った。

「先方が希望する条件を提示してくれば、それに合った者を見つけて説得するだけです。複数いれば、希望者を募ります。無理矢理行かせたりしませんから。」
「もし希望者が現れなければ?」
「交換を提案した本人に候補者の説得をさせます。それで駄目なら、交換は諦めます。自前の分析官が育つのを待つだけですよ。」

 君は待てるだろうが、とケンウッドは思った。若い局員は待てないだろうよ。