2018年4月7日土曜日

泥酔者 7 - 5

 ケンウッドとクロエル・ドーマーは一旦口を閉じた。ブラコフ副長官と3名の候補者が食事を終えて立ち上がったのだ。彼等は2人がいるテーブルに向かって近づいて来た。

「こんな場所で申し訳ありませんが、こちらの方々が貴方に気付かれたので・・・」

とブラコフが食堂で長官を紹介する羽目になったことを謝った。本当はクロエルに気が付いたのだろうと思ったが、ケンウッドは立ち上がった。クロエルも立ち上がり、その長身をアピールした。

「遠くからアメリカ・ドームへようこそ。」

とケンウッドは挨拶した。そして3名の紹介を受け、それぞれと握手した。クロエルも紹介されたが、彼は手を差し出さなかった。地球人から手を差し出さなければ握手を求めるなと言うドームのルールを、3名の候補者は守った。代わりに、素晴らしい筋肉ですね、とか、立派な体格ですね、とか褒め言葉を贈った。外観だけの賞賛なので、クロエルは曖昧な笑みを見せただけだった。テレビカメラの前で見せるお茶目な表情は見せず、真面目な遺伝子管理局の幹部として対応した。
 ブラコフは3名を運動施設に案内しますと引き連れて、食堂を出て行った。
 ケンウッドとクロエル・ドーマーは再び椅子に腰を下ろした。

「ボクちゃん、大人の応対出来たでしょ?」
「うん、ドーマー目当てで来る連中にはがっかりだろうがね・・・」

 男の候補者2名は明らかにクロエルの大きな体躯に驚いていた。映像と実物を目の前にするのとでは印象が随分違うのだ。クロエルは顔は童顔で可愛らしいが、首から下は立派な男そのものだ。

「君なら、あの3名の中で誰が副長官に最適だと思う?」
「そんなの一回の挨拶でわかりませんよ。」

 至極当たり前の返答をして、クロエルはすぐに元の話題に戻った。

「あのハリスって人、紫外線の研究をしているので、ブラコフ副長官の研究室が空いたら欲しいって言いふらしてるみたいなんす。」
「そうなのか?」

 これは失礼な話だ、とケンウッドは感じた。まだブラコフの退官迄2ヶ月あるし、彼の研究室は後輩の研究者が引き継ぐことが決まっている。退官が承認されて間なしに執政官会議で他の執政官達から了承を得た既決事案だ。
 ケンウッドはクロエルに確認した。

「本人が紫外線の研究をしていると言ったのだね?」
「そうっす。だけど、それをボクちゃんが何気にサウナで話たら、ゲート係の人が、ハリス博士は骨の研究者の筈だって言ったんす。」

 ケンウッドは端末でハリスの公式サイトを出した。それをクロエルに見せると、若いドーマーは可愛い唇を尖らせた。

「どっちが本当なんすか? どっちもありってことっすか?」
「わからん・・・紫外線と骨の関係を研究すると言うのなら、そう書くだろうし・・・」

 ケンウッドは彼に言った。

「コロニーでの彼の経歴を本部に調べてもらうつもりだ。フォーリーには無理だから、これは私に任せてもらおう。」