2018年4月18日水曜日

泥酔者 9 - 6

 遺伝子管理局の局員達は、内勤の日は午後3時頃にデスクワークを終え、夕食迄の数時間を運動施設で体力作りに勤しむのが日課だ。しかし外勤務から帰って来た日は、いつ帰ってくるかで行動が決まる。レインは局長執務室を退室するとまっすぐ一般食堂に向かった。先に食事を済ませてから本部に戻って部下の報告書を整理するつもりだった。運動は休む。明日は抗原注射の効力切れ休暇で体が動かないので、今夜のうちに面倒な書類仕事を片付けるのだ。
 食堂でテーブルに着くとすぐにジョージ・ルーカス・ドーマーや数名の部下が来て同じテーブルに着いた。彼等は集まることでコロニー人のファンクラブ等、有難くない支援者の邪魔を防ぐのだ。副官のクラウス・フォン・ワグナー・ドーマーは妻のキャリー・ジンバリスト・ワグナー・ドーマーを待っているのか、現れなかった。これもいつものことだ。キャリーは精神科医なので、患者次第で帰宅時刻が変化する。
 レインは食べながらベーリング一家の買い物内容を調査する指示を出した。

「あの周辺で買い物をするとしたら、ニューシカゴか、セントラルでしょう。」
「ニューシカゴは大きな町だがベーリングのクリニックからは遠くないか?」
「セントラルはうちの中西部支局がある。メーカーがそんな場所に現れるか?」
「灯台下暗しだ。」
「サウスリヴァーと言う町があるぞ。2、30年前にできた新しい町で、ショッピングモールがある。メーカーも潜伏しそうな賑やかな土地だ。」
「砂漠の近所に新興の町があるのか?」

 レインは内心驚いた。住民登録調査でそんな町を検索した記憶がない。

 まさか、ダリルはそこに?

  彼は心の中で町の名前をメモした。セントラルは空港があるので中西部支局に特に用事がなくてもあの地方へ行く時は必ず通る。裕福な牧場経営者等が多いので、女性の姿も頻繁に見かける。若い女、少女も平気で闊歩する町だ。ベーリングが作ったかも知れない女の子が出かけても不思議はない。だがサウスリヴァーと言う土地は初耳だ。端末で検索すると、ちゃんと表示された。大異変前に大きな町があったらしく、ショッピングモールはその跡地利用だった。辺鄙な場所かと思ったが、幹線道路が通っており、長距離トラックやバスが休憩するドライブインが発展して町になったと情報ページにあった。
 レインは自身の足でその町を訪ねて見ることにした。