2018年4月8日日曜日

泥酔者 7 - 10

「ハリス博士の問題は、月からの返答が来る迄、お預けとする。君達両名を呼んだのは、別の問題だ。」

 ケンウッドは机の上に両肘をついた。ハイネとベックマンを交互に見て尋ねた。

「ハリスの公式サイトを見つけたのは保安課のゲート係だ、と私は某遺伝子管理局員から聞いたのだが、間違いはないか?」

 ハイネが眉を上げた。

「某局員と仰いましたか?」
「うん。今日の昼だ。」

 ハイネは少し考えてから言った。

「ゲート係にハリスの身元を問い合わせたのは、恐らく私が最初だと思いますが。」
「君が?」
「庭園で彼が私の横で昼寝をした時です。覚えておられますか?」

 ベックマンは初耳だったので、え? と言う表情でハイネを見た。ケンウッドは覚えていた。ハリス自身が彼に告げたのだし、ハリスはこともあろうに眠っていたハイネにキスしたこと迄告白した。
 ベックマンが今更ながらハイネに確認を取った。

「ハリス博士は貴方の横で昼寝をしたのですか? 」
「そうです。当ドームに来た当日です。」
「横・・・とは、距離は?」
「私の手が彼に当たって、私は目が覚めました。」

 ハイネは長身だし、腕のリーチは長い。しかし目一杯伸ばしても1メートル超えるだろうか? 少なくとも、体が接触する距離で、見知らぬ人間が寝ていると言うのは不愉快だ。

「驚かれたでしょうな?」
「当然です。すぐにゲート係に身元照会しました。ドームで勤務しているコロニー人ではないと確信しましたので。」
「それで、ゲート係が公式サイトを見つけた?」
「顔認証でデータを探したのです。ゲート通過人物をコンピュータが探し当て、彼の公式サイトにリンクしたのです。」

 ケンウッドが、そうか、と呟いた。ハイネとベックマンが彼を振り返った。

「長官?」
「何か?」

 ケンウッドは溜め息をついた。

「ドーム内のコンピュータから直接地球外サイトにはアクセス出来ないが、マザーコンピュータ自体は、宇宙連邦内のデータを覗く検索能力を持っている。ゲート通過人物のデータが少なかったので、マザーは自分で更なるデータを外から拾って来たのだ。」

 彼はベックマンを見た。

「ゲート係のドーマーがハリスの公式サイトを見つけたと聞いた時、私はセキュリティの問題だと慌てた。ドーマーが外の情報を見てはいけないと言う規則に疑問を抱いているが、規則がある以上は守らせるのが私の役目だ。その規則が簡単に破られるセキュリティの脆弱さに慌てたのだが、どうやらマザーコンピュータが優秀すぎる為に穴が出来ているらしい。ゲート係は地球外のデータを見たと言う意識はない筈だ。これは委員会にマザーの構造の問題だと報告しておく。」

 ベックマンは、それではもう用事はありませんね、と確認して退室して行った。
ハイネも立ち上がった。挨拶して歩きかけて、彼は背を向けたまま尋ねた。

「長官、もしや貴方は、私がまたハッキングしたとお考えだったのでは?」

 ケンウッドは吹き出した。

「それはないよ、ハイネ。私はゲートのコンピュータがウィルスかバグの被害を受けているのではないかと杞憂しただけさ。君なら専門家を呼ばなくても修復出来るだろう?」