2018年4月20日金曜日

泥酔者 9 - 8

 たっぷり1時間経ってから、ビル・フォーリー・ドーマーは運動施設へ出かけた。夜の運動をする人々が体力維持に努めている中を歩き、フィットネスバイクで競っているハイネ局長とヤマザキ医療区長、それにジェレミー・セルシウス・ドーマーの3名を見つけた。ケンウッド長官がいてくれたら良かったのに、と思ったが、長官は副長官の交代人事でこのところ忙しい。それに新執政官ハリスの研究室の問題もある。まだ執務室での仕事が忙しいのか、今夜は姿が見えなかった。
 フォーリーが近くで立ち止まってこちらを見たので、セスシウスが目敏く気づいて局長に目配せした。ハイネが足を止めた。

「何か報告か?」

 ヤマザキは執政官の粗探しをするのが仕事の男をチラリと見て、気づかないふりをした。同じく足を動かし続けるセルシウスに少し「走行距離」で負けていると知って、気張って見せた。セルシウスが苦笑した。
 フォーリーがハイネに近づいた。ヤマザキに聞かれて構わない内容だったので、報告した。

「今日の夕方、局員ワグナー・ドーマーが空港で2名のコロニー人男性から声を掛けられました。彼等はハリス博士を探している様子だったとのことです。」

 そこで彼は口を閉じた。それ以上の報告はなく、ワグナーもそれ以上知らないのだ。ハイネはヤマザキを振り返った。ヤマザキもハリスの宇宙での素行について多少の知識をケンウッドから与えられていたので、足を止めた。

「取り立て屋の遣いだよ、ドーマー君達。借金を踏み倒して逃亡した人間を捕まえて金貸しの元へ連れて行くハンターだ。」
「捕まった人はどうなるのです?」

 とセルシウス。ヤマザキはちょっと考えるふりをした。

「まぁ、ボコボコにされるか、空気のない場所に放り出されるか・・・」
「労働させて借金を返済させると言うことはしないのですか?」
「働いて返せる額だったらねぇ。」

 ドーマー達は借金に無縁だ。ヤマザキはこのドームが永遠に世俗の汚い習慣から隔離されていれば良いのに、と思った。