2018年4月3日火曜日

泥酔者 6 - 2

 送迎フロアに入ると、まだ太陽がやっと光の端っこを地平線の向こうに出したばかりだと言うのに、ローガン・ハイネがきっちりとスーツを着込んで立っていた。ケンウッドは彼が長官と出産管理区長の不在に気づいてわざわざここまで出て来るだろうと予想していたので、驚かなかった。意地悪するつもりはなかったのだが、故意に冷淡に、

「出迎え、ご苦労。」

と短く挨拶して東の回廊に向かって歩き出した。ハイネはゲートを見た。しかし現れたのは彼の想い人ではなく、見知らぬコロニー人の男性2人だった。彼等は目の前に有名な白いドーマーが立っていたので、びっくりして立ち止まった。ゲート係が彼等に横の面談室で招待者から連絡がある迄待つように、と声を掛けた。
 ハイネが動かないので、ケンウッドは背を向けたまま言った。

「女性は消毒に時間がかかる。其れ迄無駄に時間を潰すつもりかね?」

 恐らくハイネはムッとしただろうが、大人しく後ろについて歩き始めた。
 東の回廊に朝陽が差してきた。太陽がゆっくりと昇って来る。きっと後ろを歩いているドーマーの純白の髪が美しく輝いているに違いない。
 ケンウッドは足を止めて日の出を眺めた。空が澄んでいる。大地の草花が光を浴びて活き活きと輝き出した。
 ハイネが少し距離を置いて立ち止まったので、ケンウッドは言った。

「この惑星はいつ、どこを見ても美しい。そこに住んでいる生きとし生けるもの、全てが美しい。」

 彼はドーマーを振り返った。ハイネは外には目もくれず長官を見つめていた。ケンウッドは微笑した。

「誰も君から大切な人を取り上げたりしないさ。」

 まだハイネが黙っているので、彼は地球人類復活委員会の幹部達の裁定を伝えた。

「アイダ・サヤカ博士は地球での終身勤務を命じられた。これ迄通り定期的に重力休暇を取って健康維持に務めてもらうが、ドーム勤務を無期限に果たしてもらう。結婚は自由だが、立場上公にしてもらっては困る。ドームの中で結婚出来るのは、ドーマー同士のカップルだけだからね。だから、彼女は今日から妻帯者用アパートに宿替えする。人目につかぬよう行き来すると良い。それから、これは承知していると思うが、子供は作らないでくれ。以上だ。」

 ローガン・ハイネ・ドーマーは1分近く固まっていた。ケンウッドの言葉一つ一つを頭の中で吟味していたのだろう。それから数歩でケンウッドに近寄ると、いきなり抱き締めた。ケンウッドは照れ臭かったので、言い訳がましく言った。

「親としての執政官が息子のドーマーの為にしてやれるのは、この程度だがね・・・」

 ハイネが彼の耳元で囁いた。

「有り難うございます・・・有り難うございます・・・」

 ケンウッドは彼の背中を軽く叩きながら、ふと思った。

 送迎フロアでアイダが戻って来なかったら、この男はゲートを突破して外へ出るつもりだったのでは・・・?