ケンウッドは声を低めて地球人類復活委員会にアイダとハイネの仲を認めてもらったとヤマザキに報告した。
「委員長は、西ユーラシアにいたベルトリッチだな?」
とヤマザキが確認した。ケンウッドが頷くと、ハイネが笑顔で言った。
「若い頃から斬新な発想で研究に取り組んでいた遺伝子学者です。マリノフスキーが彼女の大ファンだったのですが、委員長選挙に立候補して当選してしまったので、寂しがっていました。」
「彼女はユニークだからな、ドーマーの良き理解者だ。」
「僕は彼女がロベルトの時代から知っているんだ。思いやりのある面倒見の良い人だ。」
新委員長を賞賛する会話をしているうちに始業時間が迫ってきた。ケンウッドは急いで残りの食べ物を口に詰め込んだ。ハイネはまだ悠然と食事を続けていた。
「長官は面接に付き合われるのですか?」
「否、私はガブリエルが選ぶ人間に口を出すつもりはない。」
「だが、君の部下になる人間を選ぶんだぞ?」
「だからこそ・・・自分で選ぼうと思うと欲が出て、結局選べないと思うんだ。」
ケンウッドは冷めたコーヒーをがぶ飲みして、立ち上がった。
「秘書達を待たせたくないので、お先に失礼するよ。」
良い1日を、と互いに挨拶してケンウッドは食堂を出て行った。ヤマザキは勤務明けだったので急がない。最後のパンケーキに取り掛かったハイネにそっと尋ねた。
「君は彼女の辞任申請がなかったら、告白していたかい?」
ハイネが手を止めた。医者を真っ直ぐに見て答えた。
「彼女はいつかは宇宙へ帰ると言ったでしょう。その時に・・・」
「遅かれ早かれ、の問題だったのか。」
ヤマザキは苦笑した。
「彼女がいきなり爆弾みたいに辞表を提出したものだから、出産管理区は大騒ぎだったんだ。彼女が次期区長に推薦したランバート博士はパニックになっていた。僕の所に来て、サヤカを翻意させてくれと泣きついたんだよ。」
「ランバート博士は優秀ですよ。」
「うん。だからサヤカも本人に相談なく推薦したんだろうさ。だけどランバートは彼女の下で働くことで十分満足しているんだ。みんなサヤカの辞意の真意を測りかねて困惑していた。ケンさんが彼女を月へ連れて行ったので、説得してくれるものと期待していたんだ。よもや君の告白で彼女が翻意したとは想像もすまい。」
「私の言葉だけでは彼女を引き止めるのは無理でしたよ。厄介な法律の問題がありますから。長官はそれをクリアする為に月へ行かれたのですね。」
「うん。委員長や理事達を説得すれば大丈夫だと自信があったのだろう。」
ハイネは最後のパンケーキの一切れを口に入れてよく噛んで飲み込んだ。それから言った。
「ハレンバーグやハナオカが委員長だったら、こうは上手く行かなかったでしょう。彼等年寄りには、私が関心を示す女性を取り上げたがる習性がありましたから。」
「あの人達はあの人達なりの方法で君を守っただけなんだよ。もう60年以上昔の話だろう? 君はまだヒヨッコだった筈だ。年上の執政官達に対して上手く振る舞う方法を見つけられない若造が、女性達に翻弄されるのを見ていられなかったのだろうよ。だが、自分達がとった処置が君を深く傷つけるとは予想出来なかった。そこは連中も浅はかだったな。
まぁ、何はともあれ・・・」
ヤマザキはハイネを真っ直ぐ見つめて声を出さずに言った。
「結婚 おめでとう。」
ハイネは軽く頭を下げてその言葉を受け取った。
「委員長は、西ユーラシアにいたベルトリッチだな?」
とヤマザキが確認した。ケンウッドが頷くと、ハイネが笑顔で言った。
「若い頃から斬新な発想で研究に取り組んでいた遺伝子学者です。マリノフスキーが彼女の大ファンだったのですが、委員長選挙に立候補して当選してしまったので、寂しがっていました。」
「彼女はユニークだからな、ドーマーの良き理解者だ。」
「僕は彼女がロベルトの時代から知っているんだ。思いやりのある面倒見の良い人だ。」
新委員長を賞賛する会話をしているうちに始業時間が迫ってきた。ケンウッドは急いで残りの食べ物を口に詰め込んだ。ハイネはまだ悠然と食事を続けていた。
「長官は面接に付き合われるのですか?」
「否、私はガブリエルが選ぶ人間に口を出すつもりはない。」
「だが、君の部下になる人間を選ぶんだぞ?」
「だからこそ・・・自分で選ぼうと思うと欲が出て、結局選べないと思うんだ。」
ケンウッドは冷めたコーヒーをがぶ飲みして、立ち上がった。
「秘書達を待たせたくないので、お先に失礼するよ。」
良い1日を、と互いに挨拶してケンウッドは食堂を出て行った。ヤマザキは勤務明けだったので急がない。最後のパンケーキに取り掛かったハイネにそっと尋ねた。
「君は彼女の辞任申請がなかったら、告白していたかい?」
ハイネが手を止めた。医者を真っ直ぐに見て答えた。
「彼女はいつかは宇宙へ帰ると言ったでしょう。その時に・・・」
「遅かれ早かれ、の問題だったのか。」
ヤマザキは苦笑した。
「彼女がいきなり爆弾みたいに辞表を提出したものだから、出産管理区は大騒ぎだったんだ。彼女が次期区長に推薦したランバート博士はパニックになっていた。僕の所に来て、サヤカを翻意させてくれと泣きついたんだよ。」
「ランバート博士は優秀ですよ。」
「うん。だからサヤカも本人に相談なく推薦したんだろうさ。だけどランバートは彼女の下で働くことで十分満足しているんだ。みんなサヤカの辞意の真意を測りかねて困惑していた。ケンさんが彼女を月へ連れて行ったので、説得してくれるものと期待していたんだ。よもや君の告白で彼女が翻意したとは想像もすまい。」
「私の言葉だけでは彼女を引き止めるのは無理でしたよ。厄介な法律の問題がありますから。長官はそれをクリアする為に月へ行かれたのですね。」
「うん。委員長や理事達を説得すれば大丈夫だと自信があったのだろう。」
ハイネは最後のパンケーキの一切れを口に入れてよく噛んで飲み込んだ。それから言った。
「ハレンバーグやハナオカが委員長だったら、こうは上手く行かなかったでしょう。彼等年寄りには、私が関心を示す女性を取り上げたがる習性がありましたから。」
「あの人達はあの人達なりの方法で君を守っただけなんだよ。もう60年以上昔の話だろう? 君はまだヒヨッコだった筈だ。年上の執政官達に対して上手く振る舞う方法を見つけられない若造が、女性達に翻弄されるのを見ていられなかったのだろうよ。だが、自分達がとった処置が君を深く傷つけるとは予想出来なかった。そこは連中も浅はかだったな。
まぁ、何はともあれ・・・」
ヤマザキはハイネを真っ直ぐ見つめて声を出さずに言った。
「結婚 おめでとう。」
ハイネは軽く頭を下げてその言葉を受け取った。