ケンウッドは朝食を摂りに一般食堂へ行った。昨夜の乱闘騒ぎを起こした執政官達は中央研究所の食堂にいるのだろう、それらしき人々の姿はなかった。
一緒にテーブルに着いたハイネ局長は乱闘騒ぎを知らないのか、或いは知っていてもケンウッドから切り出さないので知らないふりをしているのか、事件には一言も触れなかった。それよりも、もっとややこしい案件を出して来た。
「昼前の打ち合わせ会で申請しようと思ったのですが、今日は副長官の後任候補が本部を見学に訪れるので、今のうちに申し上げておきます。」
ケンウッドは理由のない不安を感じた。ハイネが急ぐような案件とは何だ? 物凄く重要なことか?
「何だね、勿体ぶって・・・」
「勿体ぶってなどいませんが、ドーマー交換を申請します。」
「えっ?」
もう少しでケンウッドはフォークを落とすところだった。アメリカ・ドームでは先代リプリー長官の時代から既に15年近くドーマー交換を行っていない。その前のリン長官が遺伝子管理局に無断で行ったドーマー交換の結果、進化型1級遺伝子危険値S1保有者ダリル・セイヤーズ・ドーマーに脱走される羽目に陥った苦い経験があるからだ。
ケンウッドはフォークを持ち直した。
「どうしてまた急に・・・?」
「北米南部班から、衛星データ解析に長けた人員を要求されました。調べて見ましたが、当アメリカ・ドームには宇宙からの情報を分析する任務に就いているドーマーはおりません。」
「それは、地球人に宇宙の情報を必要以上に与えてはいけないと言う法律があるから・・・」
「宇宙の情報を分析するのではなく、衛星がスキャンした地上データを解析するのです。」
「ドームの中にいるドーマーにさせる仕事ではない。」
「遺伝子管理局は必要と判断しました。」
「何のために?」
「メーカーの監視です。」
ハイネは、ポール・レイン・ドーマーが掴んだ4Xと呼ばれる女子誕生の鍵を示す方程式の話を語った。ケンウッドには初耳だった。田舎のメーカーが、地球各地のドームのどの科学者も今まで解明できなかった女性が生まれない原因を解き明かしたと言うのか? そしてその方程式で女性を誕生させたかも知れないと言うのか?
ハイネ局長は静かにケンウッドを見守っていた。長官が激しい心の動揺に必死で耐えているのを黙って見ていた。彼が冷静に座っていたので、ケンウッドも間も無く頭を冷やすことが出来た。
「考えてみるに・・・」
とケンウッドは囁いた。
「そのメーカーは、女の子を誕生させることに成功したとして、何故そうなったのか、自分達でもわかっていないのではないか? だから、方程式などと言う得体の知れないものが実在するかの様に言っているのかも知れない。もし連中が本当に女子誕生の方法を確立させているなら、もっと大っぴらに金になる客を集めていることだろう。」
ハイネも頷いた。
「私もそう思います。レインも疑っているのです。しかし敵のアジトに乗り込むには口実も物証も何もないので、確認のしようがありません。それで彼は他のメーカー達が件の業者を狙う様に故意に名と噂を流したのです。件のメーカーのアジトは砂漠の中にある一軒家で、迂闊に近ずけません。空からの監視も目立ちすぎます、周囲に何もないところですから。それで、もっと高い場所から見張らせようとレインは考え、私に相談してきました。」
「だから、衛星データ分析官なのか・・・」
一緒にテーブルに着いたハイネ局長は乱闘騒ぎを知らないのか、或いは知っていてもケンウッドから切り出さないので知らないふりをしているのか、事件には一言も触れなかった。それよりも、もっとややこしい案件を出して来た。
「昼前の打ち合わせ会で申請しようと思ったのですが、今日は副長官の後任候補が本部を見学に訪れるので、今のうちに申し上げておきます。」
ケンウッドは理由のない不安を感じた。ハイネが急ぐような案件とは何だ? 物凄く重要なことか?
「何だね、勿体ぶって・・・」
「勿体ぶってなどいませんが、ドーマー交換を申請します。」
「えっ?」
もう少しでケンウッドはフォークを落とすところだった。アメリカ・ドームでは先代リプリー長官の時代から既に15年近くドーマー交換を行っていない。その前のリン長官が遺伝子管理局に無断で行ったドーマー交換の結果、進化型1級遺伝子危険値S1保有者ダリル・セイヤーズ・ドーマーに脱走される羽目に陥った苦い経験があるからだ。
ケンウッドはフォークを持ち直した。
「どうしてまた急に・・・?」
「北米南部班から、衛星データ解析に長けた人員を要求されました。調べて見ましたが、当アメリカ・ドームには宇宙からの情報を分析する任務に就いているドーマーはおりません。」
「それは、地球人に宇宙の情報を必要以上に与えてはいけないと言う法律があるから・・・」
「宇宙の情報を分析するのではなく、衛星がスキャンした地上データを解析するのです。」
「ドームの中にいるドーマーにさせる仕事ではない。」
「遺伝子管理局は必要と判断しました。」
「何のために?」
「メーカーの監視です。」
ハイネは、ポール・レイン・ドーマーが掴んだ4Xと呼ばれる女子誕生の鍵を示す方程式の話を語った。ケンウッドには初耳だった。田舎のメーカーが、地球各地のドームのどの科学者も今まで解明できなかった女性が生まれない原因を解き明かしたと言うのか? そしてその方程式で女性を誕生させたかも知れないと言うのか?
ハイネ局長は静かにケンウッドを見守っていた。長官が激しい心の動揺に必死で耐えているのを黙って見ていた。彼が冷静に座っていたので、ケンウッドも間も無く頭を冷やすことが出来た。
「考えてみるに・・・」
とケンウッドは囁いた。
「そのメーカーは、女の子を誕生させることに成功したとして、何故そうなったのか、自分達でもわかっていないのではないか? だから、方程式などと言う得体の知れないものが実在するかの様に言っているのかも知れない。もし連中が本当に女子誕生の方法を確立させているなら、もっと大っぴらに金になる客を集めていることだろう。」
ハイネも頷いた。
「私もそう思います。レインも疑っているのです。しかし敵のアジトに乗り込むには口実も物証も何もないので、確認のしようがありません。それで彼は他のメーカー達が件の業者を狙う様に故意に名と噂を流したのです。件のメーカーのアジトは砂漠の中にある一軒家で、迂闊に近ずけません。空からの監視も目立ちすぎます、周囲に何もないところですから。それで、もっと高い場所から見張らせようとレインは考え、私に相談してきました。」
「だから、衛星データ分析官なのか・・・」