2018年4月12日木曜日

泥酔者 8 - 5

 フォーリー・ドーマーは、長官がどうしてもハリスに我慢出来なくなった時は遠慮なく申し出て下さい、と言った。執政官を追い払う手なら何でも考えつくから、と恐ろしい冗談を言って長官執務室を退室して行った。
 昼前の打ち合わせ会にブラコフ副長官とハイネ局長が2、3分の時間差で現れた。ケンウッドは彼等にハリスの身元照会の結果を真っ先に報告した。2人共、滑稽なほどがっかりした。余程ハリス博士のことが気に入らないのだ。しかし、合法的に追い払えないとわかると、何もコメントしなかった。
 ケンウッドはハリスの件を終わらせると、ブラコフに改めて向き直った。

「3人の候補者から適材は見つかったかね?」

 ブラコフが難しい顔をした。

「優劣をつけがたいです。」

 するとハイネが尋ねた。

「これと言う逸材がいないと言うことですな?」
「ええ・・・まぁ・・・」

 ブラコフが曖昧な笑を浮かべた。

「研究者としては、3人共素晴らしい功績を学校や先の職場で挙げています。しかし、副長官と言う職に適材かと考えると、僕の欲目かも知れませんが、みなさんどこか物足りないのです。」
「足りない?」
「研究者としては優秀な方々なのですが、副長官は研究だけでなく、ドーム内の生活環境の整備やドーマー達の健康管理が仕事です。あの方達はそれがなかなか呑み込めない様で・・・ドーマーがコロニー人と対等の権利を持つ地球人だと言うことは理解してくれたのですが、研究用の特殊な存在だと言うことと人間だと言うことが頭の中で両立しないらしくて。」

 確かに、ドームで働いたことがないコロニー人や地球人にはドーマーの存在意義を理解するのは難しいかも知れない。ドーマーは人間で、権利も義務もドームの外の人間と変わらない。しかし、研究用に育てられるので、ドームが「所有する人間」であり、ドームの外の地球人にはドーマーと言う存在を知られてはいけないし、選挙権と納税義務はない。
ドーマーは研究の名の下では、人間であることを「休止」して素直に検体を提供し、実験に協力する。その見返りにドームは彼等を大切に庇護する。

「執政官はドーマーの親でなければならない、と言うのがなかなか理解してもらえないのです。親は子供に命令出来ますが、同時に子供を愛して守らなければなりません。コロニーから来た人には、何故コロニー人より丈夫で筋力の強い地球人を庇護しなければならないのか、年上のドーマーをどうすれば子供扱いできるのか、と悩む様です。」

 ケンウッドは溜め息を付いた。

「それで? 採用したい人は見つかったのかね?」