2018年4月7日土曜日

泥酔者 7 - 8

 保安課長アーノルド・ベックマンは長官執務室に入ってくるなり、ケンウッドに尋ねた。

「先刻の憲兵隊からの連絡の件でしょうか?」

 ケンウッドはキョトンとした。

「はぁ? 何のことだね?」

 ベックマンは突っ立ったまま、長官を見つめ、それから遺伝子管理局長に気が付いた。
また視線を長官に戻した。

「ハリス博士のことですが?」
「私の用件は別件だが・・・ハリスも関係している。」

 ケンウッドは椅子を保安課長に勧め、ベックマンが座るのを待って相手に言った。

「君の報告を先に聞こう。憲兵隊から何を言って来たんだ?」
「ジョン・ビーチャー大尉がアメリカ・ドームにレイモンド・ハリスと言う科学者はいるかと尋ねて来たのです。いると答えると、彼の安全の為にドームの外に向こう10日は出さないように、と要請されました。」
「何故だね?」

 ベックマンはハイネを見た。躊躇した様子だったので、ハイネが尋ねた。

「ドーマーに告げてはいけないことですか?」
「コロニーの悪い話です。」

とベックマンは言い、説明した。

「レイモンド・ハリス博士は、火星コロニーで問題を起こしていました。酒と博打で民間の闇金融業者から借金して、返済出来ずに行方を暗ましたのです。家賃を払えず、職場にも債権者が取り立てに来たので、仕事を続けられなくなったそうです。最初はコロニーの警察が失踪届けを受理したのですが、捜索はされませんでした。成人の行方不明者は事件性がない限り、警察は動きませんから。
 ところが昨日になってハリス博士が1ヶ月前に地球行きの航宙券を購入したことが判明し、同時に金融業者の取り立て専門の業者が昨日地球行きのシャトルに乗ったこともわかりました。借主を暴力で従わせ、連れ戻すのが仕事の連中です。一つのコロニーだけの問題ではなくなりましたので、憲兵隊が動いたのです。連中に捕まると生命が危険に脅かされることもあるのです。
 ハリス博士がアメリカ・ドームにいることが連中に知られるのは時間の問題です。しかし連中が持っている入星許可証は4日期限のものですから、彼等が出て行く迄ドームの中に居れば安全だ、と言うことで、彼を外に出さないようにと憲兵隊から要請がありました。」

 ケンウッドは暫く黙って居た。そして呟いた。

「酒・・・博打、そして借金で・・・夜逃げしてドームに来たのか?」

そして職歴詐称なのか? ケンウッドは目眩を起こしそうになった。