2018年4月15日日曜日

泥酔者 9 - 2

 車内でレインはトリスタン・ベーリングを検索した。ウェスト・セント・ルイスから西に300キロほど行った山地にある小さな町に住んでいるとデータベースに出てきた。
ベーリング夫妻はちゃんと住民登録されているし、遺伝子登録もされている。妻は正真正銘のドームで生まれたクローンだ。夫妻には男の子が一度生まれたが、3歳で病死していた。その後子供はいない筈だ。
 ベーリングの職業は医師。しかも男性機能回復のクリニックを経営している。メーカーとして違法クローンを製造するにはもってこいの職業だ。客は少なくないだろうし、クローン製造の為の細胞も簡単に得られる。
 レインは情報屋から得たイメージの中の建物を思い起こした。そしてベーリングのクリニックを検索すると、同じ写真の建物を端末画面で見ることが出来た。
 彼はそれをジョージ・ルーカス・ドーマーに見せた。

「クリニックにしては大きな建物ですね。入院施設も兼ねているのでしょうか?」
「メーカーなら、その程度のカムフラージュはやるだろうな。」
「自宅も兼ねているかも知れません。」
「周囲に店も他の施設もないのに、女性が退屈しないか? 彼は妻帯者だ。」
「奥さんを他の男から守るために要塞を造ったのかも知れませんよ。」

 レインは考え込んだ。乗り込んで行って、「メーカーですか」とは訊けない。ましてや女の子を作る方程式を開発したかなど、質問出来っこない。情報屋を信じるなら、方程式は素人が見てわかるものではないし、簡単に手に入るとも思えない。数式や分子構造の組織図などを、テレパシーで読み取れるほど高度な訓練を受けていないのだ。ポール・レイン・ドーマーはスパイとしての教育を受けたのではない。接触テレパスは親から遺伝した自然なもので、ドームは彼にテレパシー使用の際のマナーをみっちり教えたが、それをどう仕事に活かすかは教えなかった。仕事で使うか使わないかは、彼次第なのだ。
寧ろ上司や先輩達は、彼がテレパシーを使って活動することで余計な体力を消耗しないかと心配してくれる。テレパシーに頼らないで活動する方が評価が高いことをレインは承知していた。

「他のメーカーを探そう。」

とレインはルーカスに提案した。

「メーカー同士戦わせて潰し合いをさせるんだ。ベーリングが画期的な女性クローン製造の方法を開発したと噂を流す。技術を盗みたい連中がベーリングにちょっかいを出してくる。その隙に方程式の存在の真偽を確認する。」
「女性製造の方程式の噂は既に流れています。そいつがベーリングだとバラしてやるのですね?」
「うん。」