2018年4月27日金曜日

泥酔者 10 - 8

 ベックマン保安課長が当事者各自の怪我や行動の報告を行った。軽傷ではあるが怪我人が発生しているのは確かだし、バーの食器を壊している。テーブルなどの調度品にも傷が付けられたとベックマンが告げると、ケンウッドは溜め息をついた。

「当ドームのバーは歴代の執政官達が集めた地球の工芸品である皿やグラスなどを使用している。中には大変高価な物もある筈だ。被害総額はわかるかね?」

 ベックマンは端末を見た。

「現在、バーの管理者に算定させているところです。額によっては当事者全員で負担してもらうことになると言っていました。」

 執政官達が顔を見合わせた。ブラコフもスメアと視線を交わした。「当事者」には自分達も含まれるのだろうか、と不安を感じたのだ。しかしベックマンは彼等は弁償には無関係だと判断した。

「ブラコフ副長官とスメア秘書は器物損壊に無関係と思われます。ただ、秘書氏は・・・」
「暴行罪でしょうか?」

とスメア。感情の赴くままに行動してしまったことを後悔しているのが、ケンウッドにもベックマンにもわかった。ベックマンは彼女に殴られたグラニエールを振り返った。

「スメア秘書を暴行罪で訴えるかね?」

 グラニエールは鼻をちょっと指先で触れてから、首を振った。

「こんなことを言うのも何ですが、女性に殴られて怪我をしたなんて、男としては恥ずかしい限りです。私としては公にして欲しくありません。スメア氏とは示談で解決させて下さい。弁護士を入れても良いですが、ここで話し合っても構いません。」
「スメア氏は?」
「裁判沙汰にして欲しくないのは私も同じです。自分のキャリアに傷を付けたくありません。すみません、我儘を言って・・・」

 それでケンウッドはスメアとグラニエールに部屋の隅で話し合いを持たせた。彼等が話し合っている間に、ハリスと他の4人の執政官の処分も検討した。そして観察棟に謹慎4日と判決を出した。