北米南部班の3チームが外勤務からドームに戻ったのは翌日の午後だった。航空機から降りて空港の建物内をドームに向かって移動している彼等に声をかけた者がいた。
「ちょっとお尋ねするが、貴方達は遺伝子管理局の人なのかな?」
クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが足を止めた。声を掛けて来たのは2人連れの男でビジネススーツを着ていたが、あまり馴染んでいない。民間の地球人ならわからなかっただろうが、ワグナーはドーマーだ、地球人とコロニー人をすぐに見分けることが出来た。
彼は空港の滑走路を窓越しに見た。シャトルの姿が見えない。搭乗用ウィングに着けている航空機は地球上を移動するものだけで、そのうちの1機は大西洋を渡って来た飛行機だった。
地球を旅しているコロニー人なのか?
コロニー人が地球に滞在するには2種類の許可証がある。商用と観光の短期滞在許可証と、学術的研究の為の長期滞在許可証だ。ドームで働いているコロニー人は全員後者の許可証を取得している。それは施設メンテナンスを行う技術者も同じだ。
目の前にいる2人は、研究者に見えなかった。それにドームに宇宙から客が来たのであれば、シャトルが空港にいる筈だ。ドームに来る予定のないコロニー人は、観光客か貿易関係の人間だが、彼等はそれのどちらにも見えなかった。
ワグナーは用心深く答えた。
「アメリカ・ドーム遺伝子管理局の局員ですが、何か御用ですか?」
質問して来た方の男が、頷いて、また尋ねた。
「こちらのドームに、レイモンド・ハリスと言う学者がいるだろうか?」
なんとなく上から目線で話しかけられているな、とワグナーはぼんやりと感じた。彼はハリスの姿を見たことがあったし、噂にも聞いていた。しかしドームの中のことを外部で喋るのは規則違反だと承知していた。ドーマー達は外へ出る時に、この規則を厳守することを義務付けられるのだ。それはドームを卒業して去って行った元ドーマー達にも一生着いて回る規則だった。
ワグナーは相手の目を見て答えた。
「ドームの中の人々に関する情報をお話することは出来ません。失礼します。」
すると、もう一人の男が尋ねた。少し丁寧な口調だった。
「ハリス博士がいるかどうかだけでも教えて頂けませんか? 我々は彼を探してアフリカと西ヨーロッパを3日で回って来たんですよ。地球には4日しか滞在出来ないのでね。」
ワグナーは歩き出しながら言った。
「ハリスと言う執政官はいません。」
「執政官ではなく研究員かも知れない・・・」
「ドームの正規住民に、ハリスと言う人はいませんよ。」
彼は嘘を言っていない。レイモンド・ハリスは仮許可でドームに滞在しているだけで、執政官会議での正規住民承認待ち状態だ。
2人のコロニー人は顔を見合わせた。遺伝子管理局の男達はドームのゲートに向かって歩いている。ドームが外部の人間の侵入を決して許さない鉄壁の守りを持っていることは、アフリカ・ドームや西ユーラシア・ドームで彼等2人は経験済みだった。予約や内部の身元引受人がなければ絶対にゲートを通してもらえない。
ワグナーが彼等の話し声を聞き取れない距離まで遠ざかると、男の1人がもう片方に考えを述べた。
「さっきの地球人は、『正規住民』と言ったな。ハリスは本当は明日地球に渡航する予定だったんだ。債権者に捕まるのを恐れて、1ヶ月早く渡ったんだからな。もしかすると、正規ではないまま、滞在を許されている可能性がある。」
彼の相棒がゲートの中に消えていくダークスーツの地球人の集団を見送りながら呟いた。
「それなら、このゲートの周辺で暫く様子を見ることにしよう。あの男が規則に厳格な地球のドームに耐えられずに出て来るのを待つのみだ。」
「だが、俺達の許可期間は今日が期限だ。交代要員がいる。」
「ちょっとお尋ねするが、貴方達は遺伝子管理局の人なのかな?」
クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーが足を止めた。声を掛けて来たのは2人連れの男でビジネススーツを着ていたが、あまり馴染んでいない。民間の地球人ならわからなかっただろうが、ワグナーはドーマーだ、地球人とコロニー人をすぐに見分けることが出来た。
彼は空港の滑走路を窓越しに見た。シャトルの姿が見えない。搭乗用ウィングに着けている航空機は地球上を移動するものだけで、そのうちの1機は大西洋を渡って来た飛行機だった。
地球を旅しているコロニー人なのか?
コロニー人が地球に滞在するには2種類の許可証がある。商用と観光の短期滞在許可証と、学術的研究の為の長期滞在許可証だ。ドームで働いているコロニー人は全員後者の許可証を取得している。それは施設メンテナンスを行う技術者も同じだ。
目の前にいる2人は、研究者に見えなかった。それにドームに宇宙から客が来たのであれば、シャトルが空港にいる筈だ。ドームに来る予定のないコロニー人は、観光客か貿易関係の人間だが、彼等はそれのどちらにも見えなかった。
ワグナーは用心深く答えた。
「アメリカ・ドーム遺伝子管理局の局員ですが、何か御用ですか?」
質問して来た方の男が、頷いて、また尋ねた。
「こちらのドームに、レイモンド・ハリスと言う学者がいるだろうか?」
なんとなく上から目線で話しかけられているな、とワグナーはぼんやりと感じた。彼はハリスの姿を見たことがあったし、噂にも聞いていた。しかしドームの中のことを外部で喋るのは規則違反だと承知していた。ドーマー達は外へ出る時に、この規則を厳守することを義務付けられるのだ。それはドームを卒業して去って行った元ドーマー達にも一生着いて回る規則だった。
ワグナーは相手の目を見て答えた。
「ドームの中の人々に関する情報をお話することは出来ません。失礼します。」
すると、もう一人の男が尋ねた。少し丁寧な口調だった。
「ハリス博士がいるかどうかだけでも教えて頂けませんか? 我々は彼を探してアフリカと西ヨーロッパを3日で回って来たんですよ。地球には4日しか滞在出来ないのでね。」
ワグナーは歩き出しながら言った。
「ハリスと言う執政官はいません。」
「執政官ではなく研究員かも知れない・・・」
「ドームの正規住民に、ハリスと言う人はいませんよ。」
彼は嘘を言っていない。レイモンド・ハリスは仮許可でドームに滞在しているだけで、執政官会議での正規住民承認待ち状態だ。
2人のコロニー人は顔を見合わせた。遺伝子管理局の男達はドームのゲートに向かって歩いている。ドームが外部の人間の侵入を決して許さない鉄壁の守りを持っていることは、アフリカ・ドームや西ユーラシア・ドームで彼等2人は経験済みだった。予約や内部の身元引受人がなければ絶対にゲートを通してもらえない。
ワグナーが彼等の話し声を聞き取れない距離まで遠ざかると、男の1人がもう片方に考えを述べた。
「さっきの地球人は、『正規住民』と言ったな。ハリスは本当は明日地球に渡航する予定だったんだ。債権者に捕まるのを恐れて、1ヶ月早く渡ったんだからな。もしかすると、正規ではないまま、滞在を許されている可能性がある。」
彼の相棒がゲートの中に消えていくダークスーツの地球人の集団を見送りながら呟いた。
「それなら、このゲートの周辺で暫く様子を見ることにしよう。あの男が規則に厳格な地球のドームに耐えられずに出て来るのを待つのみだ。」
「だが、俺達の許可期間は今日が期限だ。交代要員がいる。」