2018年1月31日水曜日

脱落者 5 - 6

 ケンウッドはワッツ・ドーマーとペルラ・ドーマーの顔を見比べた。ワッツは親友を傷つけた女性ドーマーを許す気配は全くなく、ペルラは困惑していた。

「まだその女の供述は取っていないのですね?」
「うん、まだ意識が戻っていない。睡眠薬を与えているからね。それに、彼女はハイネを刺した直後、ハイネの手刀を顔面に食らって鼻を折った。他人に見られたくないだろう。」
「それだと、やはり事件当時局長は正常ではなかったのですね。彼の方は女性を殴ったりしない筈です。」
「ローガン・ハイネに女は鬼門なんだよ。」

 ワッツはまだ怒っていた。ケンウッドは彼等に尋ねた。

「彼女を処罰するつもりかね?」
「当然です。」

 ワッツは即答した。

「コスビーに班長会議を開かせます。どんな結果が出ようと、執政官は口を出さないで戴きたい。」
「勿論、地球人の罪は地球人に任せるが・・・彼女の言い分を聞いてからにしてはどうかな? ハイネもまだ話が出来ない。彼がどんな考えなのか、それも聞かなければ。」

 ワッツもペルラも現役を退いて10年以上経っている。しかしその影響力はまだ無視出来ない。ドーマー達は年長者を敬えと教えられて育つ。
 ケンウッドにとっても彼等は20年以上年上だ。
 ハイネから非常時の全権を委任されているペルラ・ドーマーが穏やかにまとめた。

「局長が面会可能な状態に回復される迄、この件はお預けに致しましょう。私たちは、何が起こったのか、班長達にだけ通達します。」

 するとワッツがケンウッドをドキリとさせることを言った。

「アフリカ・ドームのテロも伝えておいた方がよろしいか?」
「それは・・・?」
「執政官が月から口止めされていることは、よく承知しております。しかし。私等ドーマーには横の繋がりもあるのですよ、長官。世界のどこかでドームに被害が出れば、必ず警告や注意が発令されます。アフリカ・ドームの遺伝子管理局から発せられた警告は、ジェレミー・セルシウスが受け取りました。ハイネが刺された時間帯です。
 アフリカ・ドーム長官ルパート・シュバルツバッハ博士と研究者3名が亡くなったのですよね?」

 ケンウッドは渋々認めた。

「ドーマーに不安を与えるなと言う本部からの指示が出ているのだよ、エイブ。」
「私等は子供ではありません。立派な爺です。事件を聞いて狼狽えたりしません。班長達は口外しませんから、どうかご安心を。」