2016年9月4日日曜日

捕獲作戦 10

 クラウス・フォン・ワグナー・ドーマーは、遺伝子管理局の局員で、ポール・レイン・ドーマーが率いる5つのチームの第1チームのチームリーダーだ。彼は、ポールとダリルより2歳下で、彼らと同じ養育係「トニー小父さん」の部屋で育った。ドーマーは2〜5歳の年齢差がある10名ばかりの子供のドーマーを1人の係が専属で養育する。だから、ドーマーたちは互いの自己紹介をする時に「誰それの部屋の出身」と言った。そして、同じ部屋の出身者たちは、兄弟同然だった。
 クラウスにとって、ポールとダリルは大好きで尊敬する兄貴だ。それ故、18年前、ダリルが突然失踪し、脱走したと判明した時、彼は酷くショックを受けた。そして彼以上に衝撃を受けたポールが人が変わった様に笑わなくなったのが哀しかった。
 ポールは、クラウスにだけは優しかったが、他のドーマー仲間には厳しい上司で通している。だから、他の部下たちは、雲上人みたいなポールより、クラウスに直接話をする。
 今朝も夜が明けぬうちから、アレクサンドル・キエフ・ドーマーがチーフ・レインと連絡が取れなくなったと泣きそうな顔で報告するのをホテルのベッドの中で聞かされた。

「チーフは特殊任務に就かれているんだ。君はチーフから命じられた衛星画像解析を急げば良い。そのうち、チーフから問い合わせが来るぞ。答えられなかったら、次回の出動はないと思え。」

 キエフはポールの追っかけをしている。ドームでは有名な男だ。ドームには、若いコロニー人の執政官たちで作るポールのファンクラブがあるのだが、彼らの間でさえ、キエフのポールに対する執着は懸念の事案になっているほどだ。
 一緒に働く機会を失うと脅されて、キエフは仕方なく引き下がった。
彼が部屋から出て行くと、クラウスはベッドから出た。彼は既に服を着て、出動準備を終えていた。キエフを連れて行きたくなかったのだ。
 ポケットで先刻から電話が着信を伝えていた。彼は電話を出して、先方に掛けた。

「チーフ?」
「やっと出たか。」

 ポールは待たされた割に機嫌が良かった。声が明るい。多分、彼のこんな明るい声は、クラウスしか聞いたことがないだろう。だから、クラウスは良いことがあったと知った。

「任務完了ですね?」
「半分だけだがな。」

ポールは本当に嬉しそうだ。これは、4Xを確保したと言う次元じゃないな、とクラウス
・フォン・ワグナー・ドーマーは判断した。ポール兄が喜ぶことって・・・まさか?

「すぐにヘリで来い。場所はGPSでわかるな?」
「はい、部下たちはどうします?」
「車で後から来させろ。君には大至急してもらいたいことがある。」