部下の名前は、ジョージ・ルーカス・ドーマー。 子供時代は誰もなんとも思わなかったが、成長してから大昔の映画の巨匠と同じ名前だと知った時は、みんなでちょっとからかった。
ドーマーの名前はファーストネームが父親から、ファミリーネームは母親のクローンの卵子を提供したコロニー人の姓から付けられるので、これは偶然であって、執政官がふざけた訳ではない。しかし、それ以来彼の渾名は「監督」だった。
ジョージは映像を記録したチップをオフィス中央にある円卓のサイドポケットに挿入した。円卓の上に3次元画像が立ち上がった。
「ニューシカゴから南西30キロの牧場なのですが、この白い家のパティオに少女がいましてね・・・」
俯瞰図が特定された場所へと縮小され、次に一軒の大きなメキシコ風農家が拡大されて現れた。口の字型の建物に囲まれたパティオがあり、植え込みのそばに女性が立っていた。顔に手を当ててカメラの方を見ている。
「確かに、少女に見えるな。」
「少女なんです、次の旋回でわかります。」
ヘリが一旦農家から離れ、ぐるりと旋回して再びパティオが見下ろせる位置へ移動した。
少女はまだ同じ位置に立っていて、ヘリが戻って来ると、手を振った。顔がはっきりと見えた。
ポールは端末の4Xの写真を呼び出して見比べた。同一人物に見える。
ジョージが撮影した少女は、ヘリが飛び去る迄手を振り続けていた。
「彼女は合図を送っていたのか? まさかヘリコプターが珍しいと言う訳ではあるまい。手を振ると言うよりも手招きしていたと、俺には見えた。」
「そんな風にも見えますね。」
「この農家は何だ? ただの農家なのか?」
「調べたところ、パーカーと言う人物の名義になっています。牧畜をしている農家と登録されていますが、主人のエルウィン・パーカーは30年程前に死亡届けが出ています。」
「今は誰が住んでいる?」
「ニューシカゴで聞き込んだところ、複数の人間が出入りしているそうです。法的には、エルウィンの養子ジェリーが相続したことになっていますね。」
「養子? 取り替え子か?」
「それが・・・」
ジョージは端末で確認した。
「該当する年齢や住所で、ジェリー・パーカーと言う人物はドームにも地元の行政機関にも登録されていません。」
ポールは部下の顔を見た。ジョージも上司を見た。
ジェリー・パーカーと名乗る人物は、偽名か、もしくはクローンだ。
「その農家に出入りしている複数の人間とは、どう言う種類の連中なんだ?」
ジョージはその連中を見たことがなかったので、返答出来なかった。
ポールは端末の電話を操作した。
「サーシャ、今日の衛星画像解析は終わったか?」
相手がアレクサンドル・キエフ・ドーマーだと知って、ジョージはうんざりした。
嫉妬深いキエフは、ポールのそばに居る人間に片っ端から突っかかる。正直なところ、キエフを生まれ故郷のユーラシア・ドームに返品したい。シベリアの永久凍土にでも埋めてしまいたい。どうしてドームはこの男をユーラシアから譲り受けたのだろう?
ポールがキエフに解析結果を送信するようにと命じるのを聞いて、彼はホッとした。
そんな彼に、ポールは椅子を勧めて、お茶を淹れた。
「氷の刃」と渾名されるポール・レイン・ドーマーが手自らお茶を淹れてくれる。これは、ポールが率いる5チームの中では、大変名誉なことと見なされていた。ポール自身は何も考えていないのだが、滅多にないことなので、部下たちにとっては、光栄な出来事なのだった。
ジョージは温かいお茶を一口飲んで、リラックスした気分になりかけた。
しかし、彼の幸せは直ぐに終わった。
ドアが開き、アレクサンドル・キエフ・ドーマーが入って来たのだ。
自席に着きかけていたポールが、不機嫌な声を出した。
「送信しろと言ったはずだが?」
ドーマーの名前はファーストネームが父親から、ファミリーネームは母親のクローンの卵子を提供したコロニー人の姓から付けられるので、これは偶然であって、執政官がふざけた訳ではない。しかし、それ以来彼の渾名は「監督」だった。
ジョージは映像を記録したチップをオフィス中央にある円卓のサイドポケットに挿入した。円卓の上に3次元画像が立ち上がった。
「ニューシカゴから南西30キロの牧場なのですが、この白い家のパティオに少女がいましてね・・・」
俯瞰図が特定された場所へと縮小され、次に一軒の大きなメキシコ風農家が拡大されて現れた。口の字型の建物に囲まれたパティオがあり、植え込みのそばに女性が立っていた。顔に手を当ててカメラの方を見ている。
「確かに、少女に見えるな。」
「少女なんです、次の旋回でわかります。」
ヘリが一旦農家から離れ、ぐるりと旋回して再びパティオが見下ろせる位置へ移動した。
少女はまだ同じ位置に立っていて、ヘリが戻って来ると、手を振った。顔がはっきりと見えた。
ポールは端末の4Xの写真を呼び出して見比べた。同一人物に見える。
ジョージが撮影した少女は、ヘリが飛び去る迄手を振り続けていた。
「彼女は合図を送っていたのか? まさかヘリコプターが珍しいと言う訳ではあるまい。手を振ると言うよりも手招きしていたと、俺には見えた。」
「そんな風にも見えますね。」
「この農家は何だ? ただの農家なのか?」
「調べたところ、パーカーと言う人物の名義になっています。牧畜をしている農家と登録されていますが、主人のエルウィン・パーカーは30年程前に死亡届けが出ています。」
「今は誰が住んでいる?」
「ニューシカゴで聞き込んだところ、複数の人間が出入りしているそうです。法的には、エルウィンの養子ジェリーが相続したことになっていますね。」
「養子? 取り替え子か?」
「それが・・・」
ジョージは端末で確認した。
「該当する年齢や住所で、ジェリー・パーカーと言う人物はドームにも地元の行政機関にも登録されていません。」
ポールは部下の顔を見た。ジョージも上司を見た。
ジェリー・パーカーと名乗る人物は、偽名か、もしくはクローンだ。
「その農家に出入りしている複数の人間とは、どう言う種類の連中なんだ?」
ジョージはその連中を見たことがなかったので、返答出来なかった。
ポールは端末の電話を操作した。
「サーシャ、今日の衛星画像解析は終わったか?」
相手がアレクサンドル・キエフ・ドーマーだと知って、ジョージはうんざりした。
嫉妬深いキエフは、ポールのそばに居る人間に片っ端から突っかかる。正直なところ、キエフを生まれ故郷のユーラシア・ドームに返品したい。シベリアの永久凍土にでも埋めてしまいたい。どうしてドームはこの男をユーラシアから譲り受けたのだろう?
ポールがキエフに解析結果を送信するようにと命じるのを聞いて、彼はホッとした。
そんな彼に、ポールは椅子を勧めて、お茶を淹れた。
「氷の刃」と渾名されるポール・レイン・ドーマーが手自らお茶を淹れてくれる。これは、ポールが率いる5チームの中では、大変名誉なことと見なされていた。ポール自身は何も考えていないのだが、滅多にないことなので、部下たちにとっては、光栄な出来事なのだった。
ジョージは温かいお茶を一口飲んで、リラックスした気分になりかけた。
しかし、彼の幸せは直ぐに終わった。
ドアが開き、アレクサンドル・キエフ・ドーマーが入って来たのだ。
自席に着きかけていたポールが、不機嫌な声を出した。
「送信しろと言ったはずだが?」