端末のGPSで位置確認をすると、件の農家が一番近い民家で、味方はまだ山一つ南に居ることがわかった。絶望的だが、山越えの道があったので、そこへ向かって歩き始めた。
キエフが申し訳なさそうに声を掛けてきた。
「軽率な行動を取りました。僕がドアを開けさえしなければ・・・」
ポールは遮った。
「過ぎたことをくよくよ考えるな。どのみち、敵の中へ連れて行かれることになっていた。」
レイ・ハリスが憎い。コロニー人の分際でドーマーをメーカーに売るのか?
2人は池から流れ出る水路に沿って歩き、山道が始まる辺りまで来た。太陽はまだ中空にあるが、普段座って仕事をしているキエフは脚が痛くなった様だ。靴の中の水がまだ残っていて、歩き辛い。
ポールは前方に土煙が立ち昇るのを見つけて立ち止まった。キエフも同じ物を見つけて叫んだ。
「チーフ、メーカーが来ます!」
武器はない。相手は既にこちらの存在を発見してスピードを上げた。ポールは周囲を見回した。身を隠すのも手遅れだろう。彼はキエフに命令した。
「左へ走れ。俺は右へ行く。俺が捕まっても戻ったり、立ち止まったりするな!」
キエフの返答を待たずに走り出した。左へ行けば味方が通る山道へ出るはずだ。敵はキエフではなく、自分を追って来る、とポール・レイン・ドーマーは読んだ。自分のスキンヘッドは目立つから、連中は間違いなくこっちへ来る。だから、キエフが安全圏へ逃げる迄時間稼ぎをしてやれる。
果たして、メーカーの自動車軍団は、向きを修正してポールの方へ走ってきた。ポールは岩を越え、ブッシュを抜けて、開けた場所に飛び出した。メーカーの車が迂回して先回りしていた。ポールは目の前にあった牛囲いの中へ跳び込んだ。
まだ若い牛の群れだったが、牛の年齢などわからない。彼は牛を掻き分けて柵から離れた。メーカーたちは彼を見失い、牛囲いの手前で自動車を駐めて降りてきた。柵の周囲を歩き、誰かが足跡を発見すると、彼らは牛の群れを前にして考え込んだ。
牛を脅かすと暴走する恐れがある。下手をすると、ドーマーを踏みつけるだろう。
ポールは牛と押しくらまんじゅうしながら、そろりそろりと移動した。時々べろりと牛に舐められた。ポールは牛に手を触れたくなかった。混沌とした、人間のものでない「思考」が怒濤のごとく手から入ってくる。悲鳴を上げたいくらい気持ちが悪い。接触テレパスのコントロールが利かなくなっていた。落ち着け、と彼は自身に言い聞かせた。
「おい、『氷の刃』!」
誰かが彼の渾名を呼んだ。勿論、返事などしない。
「大人しく囲いから出てこい。牛に踏まれる前に出てこないと、不幸な結末になるぞ。」
メーカーたちは一箇所に集まって、どうするべきか相談していた。ポールは、若い牧童らしき男が1人だけ離れて立っているのを見つけた。男は仲間の相談結果が出るのをただ待っている様子だ。 手にしているライフルは本物だ。ポールは牛の群れの中を、その男を目指して移動した。
「牛をあっちへ移そう。」
そんな声が聞こえた時、ポールは柵から跳び出した。若い牧童にとびかかり、銃を奪い取ると、牛の群れの頭上に向かって数発撃った。牛がパニックに陥った。
牛が銃声とは反対の方向へ走り出した。牧童がポールに掴みかかった。ポールはそいつを銃身で殴りつけたが、直後に足許に別方向から銃弾を撃ち込まれた。
「銃を捨てろ、ドーマー!」
背後で男の怒鳴り声が聞こえた。 ポールは、敗北を認めた。
キエフが申し訳なさそうに声を掛けてきた。
「軽率な行動を取りました。僕がドアを開けさえしなければ・・・」
ポールは遮った。
「過ぎたことをくよくよ考えるな。どのみち、敵の中へ連れて行かれることになっていた。」
レイ・ハリスが憎い。コロニー人の分際でドーマーをメーカーに売るのか?
2人は池から流れ出る水路に沿って歩き、山道が始まる辺りまで来た。太陽はまだ中空にあるが、普段座って仕事をしているキエフは脚が痛くなった様だ。靴の中の水がまだ残っていて、歩き辛い。
ポールは前方に土煙が立ち昇るのを見つけて立ち止まった。キエフも同じ物を見つけて叫んだ。
「チーフ、メーカーが来ます!」
武器はない。相手は既にこちらの存在を発見してスピードを上げた。ポールは周囲を見回した。身を隠すのも手遅れだろう。彼はキエフに命令した。
「左へ走れ。俺は右へ行く。俺が捕まっても戻ったり、立ち止まったりするな!」
キエフの返答を待たずに走り出した。左へ行けば味方が通る山道へ出るはずだ。敵はキエフではなく、自分を追って来る、とポール・レイン・ドーマーは読んだ。自分のスキンヘッドは目立つから、連中は間違いなくこっちへ来る。だから、キエフが安全圏へ逃げる迄時間稼ぎをしてやれる。
果たして、メーカーの自動車軍団は、向きを修正してポールの方へ走ってきた。ポールは岩を越え、ブッシュを抜けて、開けた場所に飛び出した。メーカーの車が迂回して先回りしていた。ポールは目の前にあった牛囲いの中へ跳び込んだ。
まだ若い牛の群れだったが、牛の年齢などわからない。彼は牛を掻き分けて柵から離れた。メーカーたちは彼を見失い、牛囲いの手前で自動車を駐めて降りてきた。柵の周囲を歩き、誰かが足跡を発見すると、彼らは牛の群れを前にして考え込んだ。
牛を脅かすと暴走する恐れがある。下手をすると、ドーマーを踏みつけるだろう。
ポールは牛と押しくらまんじゅうしながら、そろりそろりと移動した。時々べろりと牛に舐められた。ポールは牛に手を触れたくなかった。混沌とした、人間のものでない「思考」が怒濤のごとく手から入ってくる。悲鳴を上げたいくらい気持ちが悪い。接触テレパスのコントロールが利かなくなっていた。落ち着け、と彼は自身に言い聞かせた。
「おい、『氷の刃』!」
誰かが彼の渾名を呼んだ。勿論、返事などしない。
「大人しく囲いから出てこい。牛に踏まれる前に出てこないと、不幸な結末になるぞ。」
メーカーたちは一箇所に集まって、どうするべきか相談していた。ポールは、若い牧童らしき男が1人だけ離れて立っているのを見つけた。男は仲間の相談結果が出るのをただ待っている様子だ。 手にしているライフルは本物だ。ポールは牛の群れの中を、その男を目指して移動した。
「牛をあっちへ移そう。」
そんな声が聞こえた時、ポールは柵から跳び出した。若い牧童にとびかかり、銃を奪い取ると、牛の群れの頭上に向かって数発撃った。牛がパニックに陥った。
牛が銃声とは反対の方向へ走り出した。牧童がポールに掴みかかった。ポールはそいつを銃身で殴りつけたが、直後に足許に別方向から銃弾を撃ち込まれた。
「銃を捨てろ、ドーマー!」
背後で男の怒鳴り声が聞こえた。 ポールは、敗北を認めた。