2016年9月10日土曜日

中央研究所 11

 観察施設の収容者は、建物から出なければ部屋の外を歩き回ることを許された。ダリルは朝食が遅かったので昼食は摂らずにライブラリーに行った。閲覧出来るアドレスが限られているものの、ネットで世間のニュースや娯楽番組を見ることが出来る。
 収容者は少なくて、顔色の悪い男の子とすれ違っただけだった。あの子は、外の施設に送られるのだろう。彼をメーカーに創らせた親は、刑務所の中だ。子供が元気なうちに出所出来れば良いが、とダリルは同情を覚えた。出所出来れば、施設のクローンの子供に面会を許される。辛い話だが、死期が迫る子供ほど親に再会出来る機会が減る。体が急速に衰弱して命が消えて行く、それがクローンだから、と言う理由で親が子供に対する罪の意識を抱いてしまうのを、和らげる為だ。
 ライサンダーは、通常のメーカーの技術とは全く異なる方法で創られた。生殖細胞から生まれたので、本当の子供と同じ段階を経て細胞が成長している。出自が異なるだけで、普通の子供と同じだ。

 そのはずだ

 ダリルは、ライサンダーが向かったはずの書類偽造屋の表向きの住所を検索してみた。
あっさりとヒットしたが、連絡は取らなかった。ドームは情報の出し入れを洩れなく把握する。ダリルは誤魔化す為に、その付近の他の店やニュースを検索して、住んでいた地域の情報を知りたがっていると思わせておいた。
 どうすればライサンダーの現在地を知ることが出来るだろう?
思いつく方法は一つだけだった。ドーマーとして、いや、ドームに住む全ての人間がしてはいけないことをする・・・彼は猛然とキーボードを叩き始めた。
端末のスクリーンに無数の数字と文字が猛烈な勢いで流れ始めた。

 ダリル・セイヤーズ・ドーマーは、その進化型1級遺伝子が開発された本来の目的を使った。