2016年9月15日木曜日

JJのメッセージ 18

 ライサンダーは、JJが見た静音で飛ぶヘリコプターが遺伝子管理局のものだろうと疑わなかった。父親が管理局に攫われた時も、静音で飛ぶヘリが彼らの自宅に来ていたのだ。
管理局は、JJを発見した。恐らく、この農家の内情を偵察し、ここがメーカーの隠れ家だと見当をつけたはずだ。
 ライサンダーは、自身の存在も確認されたのだろうかと考えた。あのスキンヘッドはまた追ってくるだろうか?
 ラムゼイ博士が何を考えているのか、少年にはさっぱり掴めなかった。博士はこの家ではクローン製造を行わなかった。人間のクローン製造設備は、砂漠の施設内にあったので、ここでは出来ないと言う。農家では、牛の交配と遺伝子組み換えが行われているだけだった。勿論、それは弟子たちの仕事で、博士は一切関わらない。
 家の中を取り仕切っているのは、秘書のジェリー・パーカーだ。ライサンダーを子分にして、雑用を言いつけた。細かいことに気を配れる男で、台所で働くJJとシェイに優しかった。 ライサンダーは、ジェリーが博士を親と見なしているのではないか、と感じた。脚が不自由な博士に寄り添い、外出の際には必ず同行した。ライサンダーが運転手に採用される前は、ジェリーが自身で博士の車を運転していた。
 JJは、助けを呼ぶつもりでヘリに手を振ったことを、ライサンダーには伝えなかった。ライサンダーは管理局を敵と見なしている。父親を奪った憎い相手だ。もし、管理局がここへ乗り込んで来たら、彼は闘うのだろうか?
 JJはドームへ行こうと思っていた。ダリルが、その方が良いと言っていた。彼女の塩基配列を見る能力を生かせる場所は、ドームしかないのだと。 働けば、自由ももらえると言っていた。ライサンダーが想像しているより、悪い場所ではないのだ。
ドームの人々がここへ来た時、抵抗するなとライサンダーに巧く忠告出来るだろうか?

 ラムゼイ博士が引っ越しの準備をするようにとジェリーに言ったのは、ライサンダーとJJが農家に来て20日目だった。ジェリーは驚いた様だ。彼はほとんどこの農家と砂漠の研究所以外の場所に住んだことがなかったからだ。

「全員ですか? シェイも連れて行くのですか?」
「何人かは残すが、シェイは連れて行く。大事な『金の卵を生む鶏』だからな。」

 ジェリーが部屋の隅に控えているライサンダーに目をやると、博士が頷いた。

「勿論、ガキと小娘も連れて行く。」
「後でこの家を焼きましょう。」
「いや、ここはこのままにしておく。牛の生産は続けるつもりだ。」