2016年9月18日日曜日

牛の村 6

 ライサンダーは、ポールが苦痛の表情を浮かべたのを見逃さなかった。ラムゼイ博士に手で触れられて、ポール・レイン・ドーマーは嫌悪感以上のものを味わった様だ。博士がポールの顎から手を離した。ポールがよろめいた。ジェリー・パーカーが博士を庇う為に2人の間に割り込み、部下がポールを抱える様に支えた。ポールが居間に来て初めて声を出した。

「汚い手で俺に触るな、メーカー野郎!」

 そしてそのままぐったりと体の力を抜いた。ライサンダーは思わず駆け寄った。ポールは気絶していた。ライサンダーは博士を見て、ジェリーを見た。

「彼に何をしたんだ?」

 ラムゼイ博士はポールの顎を掴んだ自身の手を眺めた。訳がわからないと言う表情だ。

「無菌状態で育ったんで、今日の出来事で神経が参ったのでしょう。」

とジェリーが考えを口に出した。それ以外に誰も何も思いつかなかった。
 博士は、部下に捕虜を閉じ込めて置くように命じた。部下が2人がかりでポールを担ぎ出して姿を消すと、彼は椅子に戻った。
 ジェリーが尋ねた。

「恐らく、明日の夜迄、あの男の抗原注射は効力を維持すると思いますが、どうしますか? 移動の時に、動けなくなっている方が、運びやすいですが・・・」
「否、予定通り、明日出発する。」

 ライサンダーは、ポールが連れ去られた出口を見ていた。

「あの衰弱の仕方は異常だよ。」

と彼は呟いた。 遺伝子の片親の健康が心配になっていた。