2016年9月21日水曜日

トラック 1

 引っ越しは夜明け前突然に始まった。
 ライサンダーとJJはいきなり起こされ、荷物らしい物は持っていなかったので、ほぼ着の身着のままで前庭に出た。
大型のコンテナがトレーラーに繋がれていた。小型のコンテナトラックも2台。荷物の積み込みは既に終了しており、出て行く部下と残る部下が3,4のグループに分かれて低い声で喋っていた。
 ライサンダーはラムゼイ博士の姿を探した。博士がトラックに乗る姿を想像出来なかった。大型トトレーラーの向こうに大型のオフロード車が駐まっていた。そこへ博士と秘書が現れた。博士はシェイに右肩を支えられていた。シェイはいつも身につけていたエプロンは着けて居らず、新しいワンピースを着ていた。そのせいか動きがぎこちない。
博士がオフロード車の後部席に体を潜り込ませ、ジェリーに何か言った。注意事項でも与えたのか、ジェリーが何度か頷いた。博士の姿が完全に車内の暗がりの中に消えると、ジェリーはシェイにも後部席に乗るよう指図した。シェイはためらっていたが、結局なだめすかされ、車に乗り込んだ。
 意外なことに、ジェリーはオフロード車に乗らなかった。博士を乗せた車が走り出すと、手を振ったが、恐らく博士にではなく、シェイに振ってやったのだろう。
 ライサンダーがジェリーの別行動を不思議に思っていると、秘書は彼の方へやって来た。

「寝たりなさそうだな、ライサンダー。」
「トラックの中で寝かせてもらえると有り難いけど・・・」
「寝かせてやるさ。居眠り運転は困るから。」

 彼が家屋の方を向いたので、ライサンダーもJJも釣られてそちらを見た。
ポール・レイン・ドーマーが連行されて来るところだった。誰かのお古か、ジャージを着せられていたが、ジャージが様になっている。体を鍛える為に日頃運動をしているせいだろう。腕は後ろ手錠で縛られていた。ライサンダーは、彼の足許がしっかりしていたので少し安心した。
 ジェリーは他のメーカーたちの様な下ネタや下品な言葉で彼を迎えたりしなかった。

「おはよう、『氷の刃』。気分はどうだ? 今日はこれから長距離ドライブに出かける。車内で気持ちが悪くなったら、素直に言えよ。世話係を付けてやるからな。」

 ジェリーはJJの肩を掴んで前に押し出した。

「ほら、JJ、こいつが『氷の刃』だ。おまえの親父の研究内容をうちの博士に教えてくれた張本人だ。つまり、おまえの両親の死の原因を作った男ってことだ。」

 JJはポールを睨み付けた。しかしライサンダーは知っていた。JJはラムゼイ博士を憎むほどには管理局を憎んでいない、と。

「おまえたちは、真ん中のトラックの荷台に乗れ。JJ、しっかり世話をするんだぞ。そいつに怪我でもさせたら、女の子でも容赦しないからな。」

 ジェリーは小さなコンテナを牽引するトラックをライサンダーに指した。

「おまえには2時間やるから、JJと一緒に中に入って寝ていろ。交代時間が来れば、すぐに起こしてやる。」