2016年9月3日土曜日

捕獲作戦 8

 ダリルは夜中近くに山の家に帰り着いた。
運転している間に少し頭を冷やしたので、怒りは収まったが、くたくただった。車庫に入れる気力もなく、車を家の前に駐めたまま、家に入った。灯りは点けなかった。自宅の内部は家具の位置も置物も何もかも位置がわかっている。彼は灯りなしでも自宅内では動けた。
 キーをテーブルの上に投げ出すと、長椅子に座り込んだ。
中西部支局長が罠を張ったのは事実だが、ポールも彼を部屋へ誘い込むつもりだった。4Xの問題が世間に漏れて困る次元のものだと承知しているが、それでもダリルには疑いを抱かせるに十分だった。逮捕するつもりだったのか?捜索対象から外すことと、逮捕しないと言うことは別の話なのか?
 捕まる訳にはいかない、とダリルは思った。彼が捕まると言うことは、ラインサンダーもドームの収容対象になると言うことだ。息子はドームのことは何も知らないし、ドーマーが存在する真の理由も知らない。
 外で自動車のエンジン音が聞こえた。1台の車が近づいて来る。ダリルは銃を車内に置き忘れたことに気づいた。

 それなら、素手で闘うまでだ。
 
 ダリルはドア横の壁に背を付けて、待った。
 車が家の前で停まり、ドアが開閉する音がした。誰かが下りて歩いてくる。靴音を聞いて、相手が誰だかわかった。ダリルは天井を仰いだ。 相手がドアをノックした。

「ダリル、帰ってるんだろう? 俺だ。」

 ダリルは黙っていた。居留守が通用するとは思っていない。ポールは彼のことなら何でも知っているのだから。
ポールが続けた。

「ハリスには、君が本部から特殊任務を依頼されて動いていると説明しておいた。君が彼を殴ったのは、彼が俺のふりをしたので警戒されたのだと注意してやった。事実だろう?
あの男はコロニー人だ。ドームで馬鹿をやって、田舎に飛ばされたんだ。ドームに帰る為になんでもやるヤツだ。君の名前を書類で見て、手配犯を自分で捕まえようと野心を抱いた大馬鹿野郎だ。」

 ポールは少し間を置いた。ダリルの出方を伺った。ダリルがそれでも沈黙しているので、少し声を和らげた。

「だから、機嫌を直して、仕事の話をしようじゃないか。俺には時間があまりない。明日は支局で面会希望者と会わなければならない。次にこっちへ来るのは来月だ。
4Xは見つかったんだろ? 彼女を保護したのか、それともまだ野放しなのか、どっちだ?」

 ポールはどんな時でも仕事を忘れない。
 ダリルは思わず溜息をついた。静寂の山の中だ。ポールの耳にも聞こえた。

「ドアの近くにいるんだな。俺をこんな夜の外気に放り出して置くのか? 俺は、か弱いドーマーだぞ!」

 誰がか弱いだって?

 ダリルは体の向きを変え、ドアを開けた。
 月明かりの中にポール・レイン・ドーマーが立っていた。ダリルに銃口を向けて・・・
ダリルは呟いた。

「冗談だろ?」
「そう思うか?」

 ポールが引き金を引いた。